某高校の探究学習中間発表会に講評者として参加しました
公認心理師の山崎です。大阪で夫婦・カップルの関係改善を中心に、日常生活での困りごとを一緒に整理し、前に進めるサポートをしています。
夫婦カウンセリングの現場で、「仲は良いです」「趣味も食の好みも同じです」「休日はほとんど一緒に過ごしています」とおっしゃるご夫婦が少なくありません。しかし、「大事な話になると衝突します」「ケンカしたくないので、そのような話をしないようにしています」と続きます。
日常会話ができても、休日を一緒に楽しめても、肝心なことを話し合えない。仲が良いけれど、関係が良くない例です。夫婦には家庭を運営する責任や決断が伴います。仲が良いだけでは足りません。関係の良さも求められます。
今回は、夫婦関係を育てる3つの土台について説明します。
仲の良さと関係の良さは違う
「仲が良い」とは
仲が良いは、通常、友情や親密さを強調します。相性が良いも同じような意味で使われます。互いに深い理解と尊重があり、一緒に時間を過ごすことを楽しむ人々の間の関係を指します。
例えば、学生時代からの友人と頻繁に連絡を取り合い、週末には一緒に映画を見たり、カフェでお茶をしたりする関係です。お互いの家族について知っており、個人的な悩みや喜びを共有することが多いです。
「関係が良い」とは
関係が良いとは、一般的に、人々が互いに敬意を持ち、協力し、効果的にコミュニケーションを取ることができる関係を指します。
これらは必ずしも親密さを意味するものではなく、職場の同僚やビジネスパートナーなど、プロフェッショナルな環境でも使われます。
例えば、同じ会社の異なる部門にいる二人が、プロジェクトの際には協力し合い、互いの専門知識を尊重している関係です。個人的な繋がりはそれほど深くありませんが、仕事上では非常に協力的で信頼し合っている良い関係があります。
夫婦には両方が必要
夫婦としての生活は、単に愛情や親密さだけで成り立つものではありません。確かに、仲が良いという親密さは、お互いを深く理解し、支え合うことを可能にします。これは夫婦間での信頼と愛情を深め、共有する喜びや悲しみを通じて強い絆を築く基盤となります。
しかし、これだけでは不十分です。夫婦生活は多岐にわたる責任や決断、挑戦を伴います。このため、関係が良いという側面が重要になってきます。これは、お互いに対する尊重、コミュニケーションの技術、お互いの独立性を認め合う能力などを含みます。
例えば、経済的な決断、子育てのアプローチ、キャリアの目標など、日々の生活の中で生じる様々な状況において、夫婦が協力し合い、お互いの意見やニーズを尊重することが必要です。
夫婦は単なる恋愛関係を超えて、日々の生活の中での協力者、サポートするパートナーとして機能することが求められます。
このバランスが取れた関係こそが、健全で持続可能な夫婦生活の鍵と言えるでしょう。
平等より公平
親密さと良い関係を両立させるには、平等ではなく公平であろうとする姿勢が大切です。
画像はIllustrating Equality VS Equitより引用
平等は、各人に同じ支援(この場合は同じ高さの箱)を提供することです。公平は、個人に合わせた支援を提供することです。
これを家事・育児・経済の分担に当てはめると以下のようになります。
平等であろうとするなら、家事や育児、経済の分担を均等にします。たとえば、一方が料理をし、もう一方が後片付けをする、あるいは収入が異なっても家計への貢献金額を同じにするなどです。これが平等ですが、それぞれの状況や能力には個人差があるため、均等分担が必ずしも最良とは限りません。
公平の観点からは、それぞれの能力や状況に応じて分担を調整します。例えば、時間的に余裕がある方が家事や育児の大部分を担い、もう一方はその人の状況に応じて経済的な貢献を多くするなど、個々の状況やニーズに合わせた分担が考えられます。
共感的理解:聴くことが関係を育てる
「共感」ではなく「共感的理解」
パートナーの話を聴くとき、「共感が大切」とよく言われます。しかし、正確には「共感」ではなく「共感的理解」です。
「共感」を辞書で引くと、以下のように書かれています。
- 他人の考え・行動に、全くそのとおりだと感ずること。同感。
- 他人の体験する感情を自分のもののように感じ取ること。感情移入。
同感や感情移入という言葉が出てきます。たとえ夫婦でも、同じように感じないことは普通にあります。感情移入できないことも普通にあります。「共感してほしいと言われてもできません」という人がいます。それは当然のことです。
「共感的理解」には、同感や感情移入は不要です。
共感的理解とは、「自分は同じように感じないけれど、あなたはそのように感じているのですね」と理解することです。「同感も感情移入もできないけれど、あなたがそのように感じていることは理解できます」ということです。
これならできると思いませんか。
共感タイプと解決タイプの違い
夫婦カウンセリングにて、「夫(妻)がそんな風に感じているのを初めて知りました」とおっしゃる方が少なからずいらっしゃいます。
コミュニケーション不全の例としてよくあげられるのは、共感タイプと解決タイプの違いです。相談という行為に求めるものが異なります。
共感タイプの人にとって相談とは、多くの場合、まず「気持ちをわかってほしい」という想いが込められています。
解決タイプの人にとって相談とは、多くの場合、「解決策を考える(または提示する)」ことを意味します。
もちろん、共感タイプの人も解決を求めることに違いはないでしょう。しかし、その前に気持ちをわかってくれたという実感を欲することが多いです。「とりあえず聞いて」と言われたことがあるかもしれません。聞いてもらい、わかってもらえた実感が得られると、それで解決ということもあります。
逆に解決タイプの人には、「終わったことをあれこれ言っても仕方ない」「これからを考えればいい」という考えが強いです。それでも気持ちをわかってもらおうとがんばると、「俺にどうしてほしいの?」という言葉が返ってくることもあります。解決に向かえないもどかしさが感じられます。
問題焦点型と情動焦点型のコーピング
ストレスの対処方法は、「問題焦点型コーピング」と「情動焦点型コーピング」の2つに分けられます。
問題焦点型コーピングは、問題そのものを解決しようとするアプローチです。情動焦点型コーピングは、感情を整理して心を落ち着けるアプローチです。
例えば、はじめての赤ちゃん。子育てはわからないことばかり。実家は遠く離れている。サポートは得られない。夫の帰宅は毎日22時過ぎ。家事・育児に関与できるのは休日のみ。妻一人でやるしかない現実はわかっている。しかし、ままならない毎日に心は限界。
このケースでは、夫の帰宅時間や実家との距離など、すぐには変えられない現実があります。問題焦点型コーピング(物理的な解決)が困難な状況です。
このような状況では、情動焦点型コーピング(感情のケア)が有効です。いや、むしろ情動焦点型を選択せざるを得ません。
妻が夫にストレスをぶつけたとき、夫が「ごめんな、何もできなくて。いつもつらそうで、申し訳ないと思ってるし、がんばってくれてることに感謝してる」と返したらどうなるでしょう。
「わかってくれてる」とホッとする妻が多いのではないでしょうか。
現状をすぐに解決できないことは、妻自身もよくわかっているはずです。それでも、やりきれない気持ちを処理できない。それが、夫が「わかってくれてる」と感じた瞬間、和らぎます。
解決タイプの人は問題焦点型を優先する傾向があり、共感タイプの人は情動焦点型を優先する傾向があります。どちらも状況に応じて必要な対処法です。
目指す姿を共有する:点ではなく線で話す
正解のない選択で対立したとき
子どもの習いごと、仕事と家庭のバランス、お金の使い方。日常の選択で意見が合わないとき、どちらが正しいかを争っても平行線になりがちです。このような場面で役立つのが、お互いが「目指す姿」を共有することです。
あるご夫婦の相談です。
妻は子どもにたくさんの習いごとをさせたいと考えていました。ピアノ、英会話、水泳、プログラミング。「将来の可能性を広げてあげたい」という想いからです。
一方、夫は「子どもには自由な時間が必要だ」と考えていました。「習いごとばかりでは、友だちと遊ぶ時間がなくなる」と心配していました。
二人とも子どものことを想っています。しかし、何が最善かについての考えは正反対でした。
「週に3つは多すぎる」「いや、これくらいは普通だ」
このような議論を繰り返しても、結論は出ません。なぜなら、習いごとに唯一の正解はないからです。
階層を変えて考える
唯一の正解がないことで衝突したとき、どちらが正しいか、するしないの話を繰り返しても平行線になります。そのようなときは、階層を変えて話し合うのが打開策の一つです。
習いごとの例で説明します。
階層1(目の前の選択):習いごとをさせるか、させないか
↓ 一段上へ
階層2(目的):何のために習いごとをさせるのか
↓ さらに一段上へ
階層3(願い):どのような人になってほしいのか
↓ さらに一段上へ
階層4(あり方):親としてどうありたいのか
このように階層を上げていくと、本当に大切なことが見えてきます。
カウンセリングで、二人に「目指す姿」について尋ねました。
カウンセラー:習いごとをさせる目的は何ですか。
妻妻:子どもに色々な経験をさせて、得意なことを見つけてほしいんです。私自身、親が何もさせてくれなくて、大人になってから「もっと早く始めていれば」と後悔したことがあって。
カウンセラー:なるほど。ご主人はいかがですか。
夫:僕は逆に、習いごとばかりで友だちと遊ぶ時間がなかったんです。今思うと、あの自由な時間があったからこそ、自分で考える力がついたと思っていて。子どもには、そういう時間を大切にしてほしい。
二人の意見の違いは、それぞれの育った環境と、そこから生まれた「子どもにこう育ってほしい」という願いの違いでした。
どちらが正しいかではなく、どちらも子どもの幸せを願っている。そこが明確になったとき、話し合いの雰囲気が変わりました。
妻:あなたの気持ちはわかった。でも、私の後悔も理解してほしい。
夫:わかったよ。じゃあ、本人が楽しんでいる習いごとを優先して、数は2つまでにするのはどう?そして、半年ごとに見直す。
妻:それなら納得できる。子どもの様子を見ながら調整していこう。
このように、お互いの「目指す姿」を理解することで、二人が納得できる着地点を見つけられるようになります。
まずはお互いを知ることから
「目指す姿」に正解はありません。二人の「目指す姿」がすべて一致することもありません。
大切なのは、パートナーが何を目指しているかを知ることです。一致させることではありません。
人は相手に理解されていると感じたとき、相手を理解する気持ちがわいてくるものです。そうすると、「ここは譲りたくないけれど、ここは譲ってもいい」といった建設的な会話が起きやすくなります。
以下のような質問を共有してみましょう。
- あなたにとって「幸せな人生」とはどのような状態ですか?
- 人生で大切にしているものは何ですか?
- 「良い夫婦関係」とは、あなたにとってどんな関係ですか?
- 結婚を決めたとき、どんな未来を思い描いていましたか?
- これからの家庭をどんな場にしていきたいですか?
- 仕事と家庭の理想的なバランスはどんな比率ですか?
- 「働く目的」は何だと思いますか?
- 二人の関係がうまくいっているとき、どんなコミュニケーションをしていますか?
- パートナーに「わかってもらえた」と感じるのはどんな瞬間ですか?
これらの質問に、正解も不正解もありません。お互いの答えを聴き合い、背景を理解し合うことが目的です。
まとめ
夫婦関係を育てる3つの土台について説明しました。
第1の土台:仲の良さと関係の良さの両立
夫婦には、親密さ(仲の良さ)だけでなく、相互の尊重と協力(関係の良さ)も必要です。平等ではなく公平であろうとする姿勢が、お互いを大切にする関係を築きます。
第2の土台:共感的理解
共感的理解とは、同感や感情移入ではなく、相手がそのように感じていることを理解することです。共感タイプと解決タイプの違いを知り、問題焦点型と情動焦点型のコーピングを使い分けることで、相手の心に寄り添えます。
第3の土台:目指す姿の共有
目の前の選択(点)で対立したときは、その背景にある価値観や方向性(線)を理解し合うことが解決への道です。階層を変えて考え、お互いの「目指す姿」を知ることで、納得できる着地点を見つけられます。
これら3つの土台は、日々のコミュニケーションの中で育てていくものです。しかし、一人で取り組むのがむずかしいと感じることもあるでしょう。
夫婦・カップルカウンセリングでは、これらの土台を一緒に築いていくサポートをしています。お互いの話を安全な環境で聴き合い、新しいコミュニケーションのパターンを試していくことができます。
夫婦・カップルカウンセリングのご案内: https://couples-therapy.jp/



