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「休息の場」と「仕事の場」二つの機能を兼ね備えた「人生の舞台」が住宅。これを「主婦の目線」で設計

「主婦の目線」を大切にする一級建築士

桂典子

桂 典子(かつら のりこ)さん
いろんな仕事を経験させてもらったことが、私の支えになりました

#chapter1

右も左も分からず入ってしまった建築設計の世界。男性と互角に渡り合いながら、女性の持ち味を大切に!

 夫婦が新しい家を決める時、妻の意向が重視されることが一般的なようです。夫が家事に専念する家庭も増えていますが、妻のほうが家にいる時間が長く、家事や育児がしやすいことが家選びの重要なポイントになります。大阪・心斎橋で「汎美(はんび)設計一級建築士事務所」を開く桂典子さんは、「主婦の目線」で住宅を設計することを大切にしてきました。30年以上のキャリアを持つベテラン建築士です。 
 桂さんは「建築業界はまだまだ“男社会”。昔はすごかったですよ。女性だからといって、おっとりしていたらなめられます。でも、女性の持ち味を出すことは大事なことだし」と苦笑交じりに話します。和歌山県田辺市の老舗呉服屋さんの四女として生まれ育ちました。絵を描き物語を考えるのが好きで、子供の頃の夢は漫画家になることでした。絵の技術を高めたいと、地元の和歌山大学教育学部美術科に進学。国立大学の教育学部だけに、同級生の多くは中学校や高校の美術教諭になりましたが、桂さんはゼミの先生に紹介されて、大阪にあるグラフィックデザイナー事務所に就職しました。
 働き始めてわずか2週間後、唐突な話が上司からありました。「知人が経営する京都(本社)の建築設計事務所が、絵や図面が描ける君を必要としている。腕を試してみないか」。まだ社会人として右も左も分からない時期。考える余裕もありませんでした。しかし、これが建築士の道につながるきっかけでした。

#chapter2

初仕事はシステムキッチン付きの単身者用賃貸マンションの設計。女性らしい着眼点が評価され自信に。

 勝手が分からないままに入った建築の世界でしたが、先輩のベテラン上司の右腕として、完成予想図やインテリアのイメージ図を描くうちに、この仕事の面白さもわかり始め、やがて、建築士の資格も取得しました。「当時は経理事務の仕事もし、使い勝手の良い社員だったようです。いろんな仕事を経験させてもらったことが、私の支えになり、感謝しています。『ものの形には心がある』、これは入社時に師匠から言われた言葉ですが、忘れずに最低4年間は何があっても続けるようにとの教えにも、励まされました」と言います。
 桂さんは初めて一人で任された仕事を今も鮮明に覚えています。1980年ごろに取り組んだ大阪市都島区の6階建てマンションの設計。単身者向けの賃貸物件で、思い描いていたものを設計図にふんだんに取り入れました。しゃれた玄関ホール、台所にシステムキッチン……。特に後者は当時、賃貸マンションでは珍しく、桂さんが「独り暮らしでも、明るく楽しく食事が出来るように」と考えた末の導入でした。それが功を奏し、ある病院が看護師用住宅として、多くの部屋を借り上げるほど好評を得たそうです。「激務に追われる看護婦さんたちの『安らぎの場』として使われたことがうれしく、自信にもなりました」と目を細めます。
 やがて、先輩建築士が次々と引退。95年、「汎美」の名称を引き継いで独立し、事務所を設立しました。仕事は順調で、特に狭小な敷地を有効活用しての集合住宅、バリアフリー仕様住宅の設計は、桂さんの得意分野となりました。

「主婦の目線」を大切にします

#chapter3

住む人の気持ちを想像しながら設計しなくてはならないマンション。基本は「私が住みたい」と思うこと。

 桂さんは「家とは何か」をこう話します。「食事をしたり、睡眠を取ったり、家族のだんらんを楽しんだりの『休息の場』であり、子育てや家事をする『仕事の場』です。この2つを兼ね備え、住む人が人生を楽しむ舞台こそが『住宅』です」。さらに、こう続けます。「新しい家をほしいと考えている人は、それぞれ違った夢や理想を抱き、『人生の舞台』を真剣に考えています。その気持ちを、十分に時間をかけて聞き、専門家としてアドバイスをし、形にしていくのが建築士の仕事だと考えています」
 注文住宅は住む人の希望に沿って設計しますが、マンションなどは設計後に住む人が決まるため、住む人にとって何がいいのかは、建築士が自分で判断しなければなりません。「私が住みたいと思うかが基本となります。それだけに、ちゃんと売れているか、入居者がいるのか、とても気になります。評判がいい時は何が良かったのか、悪かった時は設計やデザインが原因になっていないか……。男社会にもまれて、『随分たくましくなったな』『鍛えられたな』と思いますが、これだけは別。いつも身近な課題に寄り添っていたい」と、建築士ならではの心境を明かします。
 ところで、桂さんの自宅は築後約40年の共同住宅だそうです。「同じ屋根の下に喫茶店や散髪屋さんがあり、まさに“五軒長屋”。でも、私には『休息の場』であり、家事という『仕事の場』。古くなりましたが、とても快適で気に入っています」と桂さん。そんな気さくさが、「主婦の目線」を大切にする桂さんらしさです。

(取材年月:2012年4月)

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専門家プロフィール

桂典子

「主婦の目線」を大切にする一級建築士

桂典子プロ

一級建築士

汎美設計一級建築士事務所

住宅とは、食事や家族のだんらんを楽しむ『休息の場』であり、子育てや家事をする『仕事の場』。家にいる主婦が主人公になれるような、ストレスを感じさせない居心地の良い「人生の舞台=家」を設計します

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