社会の変化と心のケア
今回は、身近な人とのコミュニケーションの大切さについてお話したいと思います。
今から30年位前に仕事を通して学んだことですが、その後の私の行動に影響を与え、今でも私を支えてくれています。
ある患者さんとの会話
私はその頃、看護師として混合病棟に勤務し、小児科、内科、外科、耳鼻科、眼科など様々な患者さんの看護に携わっていました。がんの末期の患者さんも多く入院され、その中のお一人で私自身とても印象に残っている患者さんとその奥様のお話をさせて頂きます。
※個人情報保護のため、匿名及び一部修正しています。
ある日の出来事です。私はその日その患者さん(以後Aさんとします)の担当で、朝の検温と観察のため訪室しました。Aさんは大手企業の管理職の方で、ご家族は奥様と息子さん3名でした。息子さんは20~30代でそれぞれ自立し、家では奥様と2人暮らしでした。
私が血圧を測りながら、雑談をしているうちに、自然にAさんがこれまでのことを振り返るようなお話になりました。
「考えたら、僕は仕事人間でね~。ずっと仕事ばかりの人生だったな~。ま、男は仕事がんばって、家庭は妻がしっかり守る。それでいいとは思っていたけどね。でも・・・最近ほんとにこれで良かったのかな~?ってふと考えることがあるんだよ。休日も接待でゴルフに行くことが多くて、息子たちが小さい頃、『お父さん、キャッチボールしよう!』ってよく言ってたのに、僕は相手してあげられなかった。自慢じゃないけど、息子達の授業参観に一度も行ったことがなかったんだよ。今考えると、もっと遊んであげたかったし、授業参観にも行くんだったな~。って思う。今考えても遅いけどね・・・。」Aさんは苦笑いしながら空を見つめるように話されました。
「そうだったんですね~。」私は頷きながらAさんのお話を伺いました。
Aさんは続けて、「でも妻には本当に感謝している。妻がしっかり家庭を守ってくれたお陰で僕は思う存分仕事ができたし、息子達も立派に育ってくれたと思う。ほんと感謝している。」
Aさんはかみしめるように話されました。
その後次のような会話になりました。
私:「奥様に感謝されているんですね。いつも奥様には感謝の言葉を伝えているんですか?」
Aさん:「とんでもない!そんなこと照れくさくて言えないよ。たぶん結婚して一度も言ったことないんじゃないかな~!たぶん気持ちはわかっていると思うし・・・。」
私:「えー!もったいない!せっかく感謝の気持ちがあるのに、ちゃんと伝えなきゃダメですよ!女性はちゃんと言葉で伝えてくれないとわからないですよ。是非伝えて下さいね。」
「今日は奥様いらっしゃいますか?」
Aさん:「たぶん後で来ると思う。」
私:「今日は是非『ありがとう』って言って下さいね!私あとで『ちゃんと言いましたか?』って聞きますよ!」と冗談交じりに話しながら部屋を出ました。
その翌日から、私は夜勤や別の部屋の担当になったこともあり、Aさんの部屋を訪室できませんでした。
Aさんとの会話をした3日後くらいにAさんの容体は悪化し、5日後に息を引き取りました。
死後の処置の間、廊下で立ち尽くす奥様の姿が目に留まりました。
「Aさんはあの後奥様に感謝の気持ちを伝えられたんだろうか?」私はそのことが気になり、奥様に声をかけました。
「残念でしたね。最後はご主人とお話できましたか?」
奥様は首を横に振り、「いいえ、1週間位ちゃんと話もできないまま意識がなくなって・・・。」
私は、「そうだったんですね。私少し前にご主人の担当でお話する機会がありましたが、ご主人、奥様にはとても感謝している。って仰っていましたよ。自分が仕事できたのも、子ども達が立派に育ったのも、奥様のお陰だって。本当に感謝している。って仰っていましたよ。」
そう伝えました。
奥様はその場で泣き崩れ、「ほんとですか?主人が本当にそう言ってたんですか?私結婚して一度もありがとうって言われたことがなくて、いつもこれでいいのかなって迷いながら過ごしていました。ありがとうございます。これで生きていけます。」
この事例を通して学んだこと
私はいろいろなことを考えさせられました。
人はなぜ、生きていると何でも伝えられるのに、照れくささやプライドなどが邪魔して思いを伝えられないんだろう?身近な大切な人にこそ必要なのに・・・。私はできているのだろうか?
人の死亡率は100%、誰もがわかっていることで、しかもいつ訪れるかわからない。病気だけでなく思いがけない事故で命を失うこともある。これから私にできることは、一瞬一瞬の出会いと時間を大切にして、自分の思いを伝えよう!
その後私は良いことほど、できるだけ相手に伝えるようにしています。
相手にうまく思いを伝えられない方へ
勇気を出して、身近な大切な人に思いを伝えませんか?


