子の引渡し・連れ去り事件⑥ 相談対応の留意点(その1)
子の引渡し・連れ去り事件④ 弁護士への相談(その1)
離婚や別居に際して、親権や監護権が争われる場合、突発的に子どもの連れ去り(引き離し)が起きることがあり、直後の混乱期の初期対応いかんによっては紛争が長期化、複雑化することもあります。
情報収集しつつ、早い段階で弁護士につながった方は、子の奪い合いを避けつつ、一方ですみやかな家庭裁判所の判断を求めて、弁護士が手続代理人として対応することになります。
局面ごとの対応は、以下のとおりです。
1 離婚前・別居前
婚姻期間中(離婚前)は父母ともに親権者(共同親権)です。別居に際して子どもの監護権者(どちらが手元において監護養育するか)についての話し合いをしないまま、事実上の別居となった場合は、残された一方当事者にすれば、連れ去り別居(子の連れ去り・引き離し)となりますから、子どもを元に戻してほしいと主張することは当然です。
ここでは、別居に正当な理由があるかどうかが、違法な連れ去りかどうかの判断に影響します。
連れ去られた側は、監護者を自らに指定することを求め、子の引渡しを求めて家庭裁判所に、監護者指定・子の引渡しの調停または審判の申立てをすることになります。緊急性が高い場合は、審判前の保全処分の申立てをあわせ行い、仮の監護者を指定し、仮の引渡しを求めることになります。
一方、子どもを連れて別居した側も、理由ある別居であって、子どもの奪い合いになりそうなときは、自らを監護者に指定することを求めて、家庭裁判所に監護者指定の調停・審判を申し立てることもできます。家庭裁判所の判断を早く仰ぐことが、紛争の拡大を防ぐことは少なくありません。
2 離婚前・別居後
離婚はしていないものの別居中の夫婦間では、いずれかが監護者となっています(調停や審判で決まった場合もあれば、事実上の監護を双方が容認している場合もあります)。
非監護者が、監護環境の変えようと考え、あるいは面会交流の場面を利用して連れ去った場合は、突然子どもの監護環境が大きく変わることになり、子どもの監護環境の安定をはかるうえでも、すみやかに家庭裁判所の判断を仰ぐことが必要です。
すでに調停や審判で監護権者が定められているときは、監護環境の悪化や子の意思の変化など、特別な事情がない限り、連れ去り・留め置きは違法なものとされます。
また、面会交流の場面を利用した連れ去り・留め置きについても、互いの約束を反故にした点で違法性が認められることが多いです。
子の奪い合いが生じやすい場面なので、冷静かつすみやかに家庭裁判所に子の引渡しを求めて審判申立てを行うことになります。監護権者が定められていないときは、あわせて監護者指定の審判の申立ても必要となります。そして、緊急性が高い場合は、審判前の保全処分の申立てをあわせ行い、仮の監護者を指定し、仮の引渡しを求めることになります。
3 離婚後
離婚の際には父母の一方が親権者と指定されていますから(単独親権)、非親権者による連れ去りや留め置きがあったときは、警察が対応してくれることが多いですが、面会交流場面で子どもが帰りたくないと言っている場合など、警察が対応を躊躇することもあるので、親権者としては任意の引渡しに応じてもらえず、紛争が長期化しそうなときは、家庭裁判所に親権者として子の引渡しを求める審判を申し立てることになります。緊急性が高い場合は、仮の引渡しを求めて審判前の保全処分の申立てもあわせ行います。
非親権者が子どもを留め置くことは、親権者の元での子の監護環境が悪化していたり、子の意向が強いような場合でなければ、留め置き行為そのものが違法とされます。ただ、ときに子どもが親権者から虐待されていて助けを求めてくるような場合もあります。そうしたときは、そのまま帰すことは子の安全をおびやかすことになるので、逆にすみやかに家庭裁判所に親権者変更を求める審判申立てを行い、審判前の保全処分として、親権者の職務執行停止を求める保全処分の申立てを行います。
※1 本コラムは法律コラムの性質上、弁護士の守秘義務を前提に、事例はすべて想定事例にしており、特定の個人や事件に関する記述はありません。
※2 当事務所では、子どもの利益(安全・安心)を最優先に考えるため、ご夫婦のどちらからの相談も受けています。特に子の連れ去り・引き離し事件に関しては、お子さんと離れてしまった側、お子さんと一緒にいる側、いずれの相談もお受けしていますが、子どもの利益を最優先に考えています。