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『お布施の“手数料”報道』を一住職がやさしく整理します

若松慶隆

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お布施の75%が手数料になる―――そんな見出しを見たら、皆さんはどう感じるでしょうか?
お布施の75%が葬儀社の手数料に 価格表を入手 僧侶も警鐘」という記事が先日朝日新聞で掲載されました。
私はこれまで「手数料」の話題にはあえて触れずにおりましたが、今回の記事は利用者にとっても僧侶にとっても無関係ではありません。
今回はこの件について業者名や具体的な金額などは特定されないようにボカしてお話致します。
参考としてぜひ知っていただきたいので、ご興味のある方はご覧ください。
【定期】あくまで私個人の限られた体験と知識に基づくものであることをご承知おきください。

1.概略
2.問題視されているポイント
3.私の実体験
4.《予想外だった》岡山での利用者の傾向
5.私の考え(まとめと提案)


1.概略
上図を用いて説明します。
(「紹介業者」とは僧侶の紹介に特化した業者だけでなく、新聞記事に出ている葬儀業者まで含むものとします)
➀葬儀や法事をしたい方が業者に僧侶紹介を依頼
➁業者が僧侶を紹介
③その僧侶がお勤めをし、依頼主が僧侶にお布施を渡す(記事では10万円)
➃僧侶は業者に「手数料」を納める(記事では7万5千円)
という流れです。
私が知る「手数料」は30~40%くらいでしたので75%とは驚愕です。
ただし記事は極端にインパクトの大きいケースを取り上げている可能性がも考えられます。

2.問題視されているポイント
■利用者が「知らないまま」引かれる手数料
(75%という数字はさておき)最もが問題として指摘されることが多いのは「依頼者は➃手数料の存在を知らされていないこと」です。
寺院から領収証を出すよう指示される業者もあります。依頼者が「お布施」と書いた金封を僧侶に渡して領収証まで受け取れば、「お布施=お寺に納められるもの」と思う方が多いのではないでしょうか。

今はプラットフォームビジネスがあらゆる分野で増えています。が、僧侶紹介の場合は「お布施」という宗教的な性格を含むため、他業界と同列に考えるのが難しいのことも利用者には知りづらい点だと思います。

以前私が参加した寺院運営のセミナー(講師は会計士か税理士)で、
「バックマージンの存在は“対価性”を裏付けるものであり宗教行為から逸脱している。既に目を付けられている。」 旨を聞きました。商取引とみなされれば課税対象となります。 そしてこの手数料システム自体が倫理的にどうなのかという議論もあります。

■寺院業界内での事情
紹介業者の存在に肯定的な僧侶と、否定的な僧侶による賛否は当初よりあります(私の周りは否定派が圧倒的多数)。
「檀家を奪うことになる」「お金目的」など倫理的な観点から批判が強いのですが、背に腹は代えられぬ事情もあります。宗教活動収入で生計が立てられているお寺は全体の約半分と言われています。
(仏教界全体にとっては良くないと分かっていても、手数料を差し引かれることが分かっていても)生計のために手を出さざるを得ないという切実な声も一定数あるのが実情です。また、檀家でない方の葬儀法事の依頼を受けることによって経験値が高まる、といった好意的な意見もあります。

ちなみに私はどちらかというと否定派です。
現状で拙寺は生計立てられている側だから、というバイアスがあるというのは承知いたします。
理由は、
・本来授受されるべき金銭の流出
・地域差があるものを全国一律にするのは弊害がある
・寺院同士の関係を悪化させ、檀家離れを招く恐れがある

という点です。理由の詳細は以降で触れてまいります。

3.私の実体験
■《自戒》白状します!

ここまで読んでくださって「なぜ筆者はそんなに『手数料』について詳しいのか?」と思われた方が居られるかもしれません。
ここで白状します!!
『(コロナ前に少し“実験的に”僧侶派遣に登録してみたことがあります、、、』
気を悪くされた方には大変申し訳ございません(懺悔文)。
言い訳として強調しておきたいのですが、私が登録した理由は「収入目的」ではなく「どういう方が利用されているか傾向を知りたかったから」です。

■携わってみて分かったこと
例えば拙寺での相場が3万円の仏事があるとして、その社ではお布施4万円、「手数料」が1万5千円といったものがありました。
つまり利用者は相場より高い支出、紹介僧侶(拙寺)は相場より低い収入となります。ここが「情報の非対称性」「全国一律と地域差の歪み」「本来不必要な金銭流出」だと思う点です。

こんなこともありました。
業者から葬儀依頼のお電話
業者「○○市○○のZ会館で明日12時開式-13時出棺、○○火葬場の葬儀があります。ご都合はいかがですか?」
私「午前中法事がありまして、(30分前までに葬儀会場到着報告の電話をすることになっている)11時半に着けるかは微妙ですが、開式には必ず間に合います。それでもよろしいでしょうか。」
業者「少々お待ちください…(保留)…今回は結構です。またの機会にお願いします。」
後日たまたまZ会館に出向く機会があり、スタッフに
「先日○○さんという方の葬儀にはどこから住職さん来られましたか?」
と聞いたところ、なんと「○○県からでした」と仰るのです。
30分前連絡に間に合うかどうかの違いではるか遠方の方が紹介されて来たということです。ビックリしました。しかしそれでも需給は成り立っているということは新鮮な学びでした…。

4.《予想外だった》岡山での利用者の傾向
経験前の私は、僧侶紹介業者の利用者は「特定のお寺と付き合い(檀家になる)をしたくない」「本来の菩提寺はあるがそこを頼りたくない」方が多いのだろうという先入観がありました。
しかし葬儀を勤めてみると、
「四十九日もお願いします。」
「業者を介さず受けるのは禁止なので…。」
「業者には言いませんから大丈夫です。」
という感じで関係の継続を希望されるケースが半分ほどありました。
もちろん先述の先入観のような方も居られたとは思いますが、逆に「来たお坊さんと相性が良ければまた頼みたい」「継続的に頼めるお坊さんを探している」という層も想像以上に居られたわけです。
これは寺院側にとって着目すべき大きなヒントだと思いました。

また僧侶紹介業者を利用している葬儀会館があることも意外でした。
おそらく会館として透明性や公平中立性のためかと推察します。
これも実際に携わってみて分かった点です。

いずれもあくまで岡山での(しかも私限定での)話であり、都市部はまた違った事情があると思います。
でもこれらを踏まると、僧侶として紹介業者との向き合い方や取り組みには改善の余地があるのではないかと考えさせられます。

5.私の考え(まとめと提案)
■否定的理由まとめ
商売が成立している以上、紹介サービスそのものが決して悪とは思っていません。しかし私は以下の点を懸念しています。
・利用者が“知らずに”手数料が差し引かれる
・本来は当事者間で完結する金銭が外に流れる
・寺檀関係は、一般企業と顧客の関係とは性質が異なる
僧侶側の力不足がこの状況を招いた部分もあり、自戒も込めて書いています。

■提案:寺院主体の「安心型 僧侶紹介プラットフォーム」構想
紹介サービスを反対する声はありますが、現実としてニーズがある以上サービスは増えると考えています。
であれば……、、、
寺院側が、利用者にとって“安心で透明性のある仕組み”を整えれば良いのではないか。
私はそう考えています(「じゃあお前がやれよ」というツッコミはご容赦ください…)。

現在も僧侶発の紹介サイトはありますが、規模では業者に及んでいません(私が知る限り)。
もし仏教系の団体が主導して全国的に運営できれば、「営利企業との差別化」と「利用者が安心して選べる環境」の両立が可能になるはずです。

ただ、この構想は語り出すと非常に長くなってしまうので……
詳細はまた別のコラムで、あらためてまとめたいと思います。

最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。
(またお会いしましょう 合掌)

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若松慶隆
専門家

若松慶隆(住職)

朝日寺

元銀行員という異色の経歴を持つ住職。多様な価値観でそれぞれの家庭事情に真摯に向き合い葬式や法事などを執り行う。寺の歴史や伝統行事などをHPやSNSで情報発信し、檀家外の人も集う開かれた寺を目指す。

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