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【黒石寺蘇民祭に想う】無形民俗文化財の存廃論【私感と私見】

若松慶隆

若松慶隆

もう1ケ月前の話ですが2024年2月17日、1000年以上の歴史を持つ『黒石寺蘇民祭(こくせきじそみんさい:国指定無形民俗文化財)』が惜しまれながら“最終回”となりました。

文化財の保護は社会課題のひとつですがその中でも、
「有形」についてはお金を掛ければ修繕・保全・維持・保存が可能なものが多い。
一方で、
「無形」についてはお金を掛ければ解決出来るものではない。
継承された「無形民俗」を体現出来る人の存在、また体現だけでなく思いも変わらず表現出来ることが必要です。しかし人口減少、大都市圏への人口集中、地方の疲弊衰退、価値観の多様化、格差社会、…などなど、無形文化財を(特に田舎で)維持し続けるには負の要素が満載です。

「続けて欲しい!」という周囲の声と「続けたい、けど維持が難しい…」という現場サイドの実情。その存廃論として、あえて究極の選択肢を2つとします。

➀本来の姿(地域住民による継承維持)が保てないのであれば終了とする。
➁大なり小なり形を変えてでも存続させる。


この二択とするなら黒石寺さんは➀を選んだということかと思います。
私は正しい判断だと支持します。かと言って➁も不正解だとは思いません。
最も尊重されるべきは現場当事者のご意見ご意向であると考えます。
その理由を述べるには押さえておくべきポイントがあります。無形民俗文化財の成り立ちはほぼ宗教(宗教と言っても○○教と言うより民間信仰・民俗信仰・地域信仰=ある特定の地域ではこうすることが良いと信じられている特有のもの)にあるということです。

なので厳密にあるべき姿を求めるならば、そこの地元住民にしか出来ない(=外部の人を入れるのは本来の姿形ではない)わけで、その住民の減少高齢化などで維持できないとなれば歴史を閉じるという選択肢は間違っていないという私感です。
黒石寺さんの場合、1000年以上に及ぶ歴史を背負った上での決断には相当な勇気や葛藤があったと思われます。あれだけ盛り上がっている祭りに端から見えても、それを住職さんと10軒の檀家さんで支えていくのは純粋に大変なことでしょう。また、その決断について周囲から批判の声も寄せられたことは想像に難くありません。
そんな中で決断を下した黒石寺さんには感謝と拍手を送るべきだと私は思います。

その傍らで➁を選んで維持存続を図っている蘇民祭もあるとのことです。
外部から人手を補ったり、行事自体を簡略化させたり、時代の変化に応じて維持保存の道を探る。これはこれで決して簡単なことではなく、批判の声も出ます。
➀も➁もどちらが正解・不正解はない、だけど結論として、
『成り立ちと全く同じものを全て維持するのはもはや不可能』なのではないかと私は考えています。

拙寺(朝日寺)も『如法行法会(投げ銭供養)』という無形民俗文化財を持つ身としましては、もちろん出来るだけ長く続けたいし続いて欲しい、でも投げ銭供養は100か0か二者択一な性格の行事ではないので100が90→80→・・・と縮小衰退していくことをなるべく食い止める努力を惜しまない事、そして将来を見据えて100は維持出来なくても0にはならない方策を考えていきたいと思っております。

【最後に支援のあり方ついて】
支援という単語を聞くと、お金を投じることを連想しがちだと思われますが、お金以外にも支援のあり方はたくさんあると思っています。特に無形文化財はなおさらです。
文化財の関係当事者の自助努力はもちろんですが、その辺りは文化財を保護する立場である行政にも支援のあり方を考えて頂きたいです。

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若松慶隆
専門家

若松慶隆(住職)

朝日寺

元銀行員という異色の経歴を持つ住職。多様な価値観でそれぞれの家庭事情に真摯に向き合い葬式や法事などを執り行う。寺の歴史や伝統行事などをHPやSNSで情報発信し、檀家外の人も集う開かれた寺を目指す。

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