—従業員ががんになったら、会社は何をすべきか— 2026年4月から「治療と仕事の両立支援」が全企業の努力義務になりました

前回のコラムで、従業員のがん治療と仕事の両立支援が全企業の努力義務になったことをお伝えしました。その最後に少しだけ触れた「経営者自身ががんになった場合」について、今回は掘り下げます。
実は、お金の面で見ると、経営者は従業員よりずっと無防備です。私が経営者の方のご相談で必ずお伝えする「3つの穴」があります。
目次
穴①:社長の傷病手当金は「あるけど、もらえない」

従業員が病気で働けなくなったとき、健康保険から給与のおよそ3分の2が最長1年6ヶ月支給される傷病手当金があります。
では経営者はどうか。法人の役員も協会けんぽ等の被保険者なので、制度上は傷病手当金の対象です。ただし支給には「報酬の支払いがないこと」という要件があり、役員報酬が支払われている間は原則として支給されません(報酬額が手当金を下回る場合の差額支給はあります)。一方、個人事業主で国民健康保険の方には、そもそも傷病手当金の制度自体がありません。
「では治療中は役員報酬を止めればいい」と思われるかもしれませんが、ここに次の穴が待っています。
穴②:役員報酬は簡単に上げ下げできません
役員報酬は税務上「定期同額給与」が原則で、期中の変更は認められないのが基本です。病気で職務が執行できなくなった場合など、やむを得ない事情による改定が認められるケースはありますが、要件の判断は個別性が高く、必ず顧問税理士との事前相談が必要です。
つまり、「治療中だけ報酬を柔軟に調整する」ことは制度上簡単ではなく、報酬を下げれば当然、ご自身とご家族の生活費に直撃します。住宅ローンやお子さまの教育費が重なる年代であればなおさらです。
穴③:借入と個人保証は、治療中も待ってくれません
多くの中小企業では、社長が金融機関からの借入に個人保証を入れています。売上の中心が社長自身の営業力や技術という会社なら、治療で現場を離れた瞬間に売上が落ち、返済負担だけが残るという事態が起こり得ます。
住宅ローンには団体信用生命保険が当たり前についていますが、事業性の借入はどうなっているか。がん保障付きの団信を扱う金融機関もありますが、加入状況を把握していない経営者の方は少なくありません。一度、借入の一覧と保証・団信の有無を棚卸しをしてみてください。
「誰が回すか」の答えを紙にしておく

お金と並ぶもう一つの備えが、決裁の代行です。仕入の支払い、給与振込、取引先への窓口——社長にしかできない業務が多い会社ほど、治療期間中に事業が止まるリスクは高くなります。
国の制度である事業継続力強化計画(ジギョケイ)は、自然災害だけでなく経営者の健康リスクも含めた事業継続の備えを整理するのに使えます。認定を受けると信用保証枠の拡大などの支援策もあり、金融機関への説明材料にもなります。
まとめ:従業員の両立支援と、社長自身の備えはセットで
前回お伝えした従業員向けの両立支援体制と、今回の経営者自身の備え。この2つはセットで初めて「がんに強い会社」になります。
チェックポイントは4つです。①治療中の生活費の源泉(傷病手当金の有無・役員報酬の扱い)、②借入の保証と団信の棚卸し、③決裁代行の取り決め、④これらを踏まえた保障の設計。
がんとお金の専門家として、また元医療職として、経営者の皆さまの「もしも」の設計をお手伝いしています。健康なうちにしか作れない備えから、一緒に始めてみませんか。
※税務の取り扱いは個別の事情により異なります。役員報酬の変更等は必ず顧問税理士にご相談ください。


