水俣病は、感染症?遺伝病?

杉田昌穂

杉田昌穂

テーマ:英才教育

最近、信じられないことを知りました。

2025年3月に熊本県宇城市が作成したカレンダーに「水俣病やハンセン病は感染症」と書いてあったそうです。水俣市からそう遠くなく、同じ熊本県内の自治体です。例えば遠く離れた北海道のちょっとぼけた老人の発言ではありません。
さらに2025年5月に発覚した事実。「家庭教師のトライ」の中学生用オンライン教材の中に、水俣病について「この病気の恐ろしいのは、遺伝してしまうこと」と書いてあったそうです。高校生の家庭教師アルバイトが勘違いして、いい加減な発言をしたのではありません。テレビなどに多くの広告を出している大手業者の教材です。この教材の作成者たちはネットで確認しなかったのでしょうか?「水俣病」と検索すれば、簡単に理解できる記事がたくさん出てきます。例えば、『工場から流れ出たメチル水銀は海の生物を汚染しました。海の中ではエラなどから直接メチル水銀が魚介類に濃縮されました。また下の図のように食物連鎖によってもメチル水銀が魚介類に蓄積されます。こうして汚染された魚介類を人が食べることで環境中のメチル水銀は人体に入りました。これらは、生物濃縮と呼ばれます。』
(環境省水俣病情報センターHP https://nimd.env.go.jp/archives/minamata_disease_in_depth/

昭和生まれの私たちの世代にとって、公害病、なかでも水俣病というのは、日本の代表的な負の歴史。「生物濃縮」によって起こった悲劇の代表的な例です。もちろん学校でも習いましたし、新聞やテレビなどマスコミでも、患者さんの苦しみや、裁判などについて何度も報道されました。「生物濃縮」という言葉を知らなかったとしても、それが感染するわけがないことも、遺伝するわけでもないことも、誰もが知っていました。なんとなくでも理解していました。

でも、分かります。なぜ信じられないことが起こったのか。

それは、現代の教育に問題があるからです。
学校でも、進学塾でも、テストの点数を上げること、偏差値を上げること、入学試験でいい点数を取っていい学校に合格させることができればいいのです。したがって入試に出ない内容は勉強しません。
中学入試・高校入試の歴史や地理の勉強ならば、「四大公害病」という言葉を知り、それが「水俣病、新潟水俣病、イタイイタイ病、四日市ぜんそく」であり、水俣病なら八代海の有機水銀、新潟水俣病なら阿賀野川の有機水銀、イタイイタイ病なら神通川のカドミウム、四日市ぜんそくなら石油化学コンビナートという言葉を覚え、地図上でその場所を特定できればなんとかなります。原因物質を垂れ流した企業名やその経緯、詳細などは知らなくてもいいのです。
啓林館発行の中学校教科書理科3年生用には「生物濃縮」について書かれています。「生物濃縮」による生態系への影響を告発したレイチェル・カーソンの「沈黙の春」を思い出すような説明が書かれていますが、水俣病については一切ふれていません。啓林館以外の教科書には「生物濃縮」の内容はありません。したがって「生物濃縮」については入試に出ません。入試に出ないから学校の授業や塾の授業で「生物濃縮」は勉強しません。啓林館の教科書を使っている学校でも勉強しないことが多いはずです。

私の手元には、高校で使われている「生物基礎」(数研出版)の教科書がありますが、ここでも「生物濃縮」の説明の中で水俣病について触れていません。

こんな状態だから、水俣病の教訓は忘れ去られてしまったのです。
なぜ教科書に記述しないのか?「水俣病など生物濃縮が原因の悲劇が日本でも起こりました。」このような短文を挿入するだけでも、効果はあると思います。水俣病の関係者のみなさんはもちろん、私たちは、この点に注目すべきだと思います。
悲劇を繰り返さないためにも。

青穂塾幼児教室では、野草をとってきて食べる授業をします。野草というのは地中の物質を吸収する力がとても強いので、農薬なども吸収して「生物濃縮」する可能性があります。したがって野草を採集するのは自分が管理している所か、あるいは農薬をまいていないのが確実な場所です。公園など農薬をまいているような場所は使いません。

「生物濃縮」の授業もします。そのときには、野草をとるときの注意も欠かせません。また鯨やマグロなど食物連鎖の上位捕食者は「生物濃縮」によって有害物質を蓄積しやすく注意が必要で、この説明もします。厚生労働省も(魚介類に含まれる水銀について)という情報を出しています。(https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/suigin/

「生物濃縮」という言葉が、入試のためだけのもの、クイズ番組の解答になるだけでなく、実生活に役立つようになってほしいと思います。

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杉田昌穂
専門家

杉田昌穂(教師)

青穂塾(せいすいじゅく)

読み聞かせ、野外体験を重視し、勉強を楽しめる子どもへと育みます。物事に興味を持ち、小さな頃からコツコツ取り組む姿勢を身につけた子どもは、自然と高度な課題にも取り組み、努力を続けるようになります。

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