子供の発達を待つことも大切(1)
米作りを始めて約10年になります。毎年失敗の連続です。特に今年はやらかしました。春にトラクターをぬかるみに沈めてしまって、農協さんに助けていただきました。ところが稲刈りの時にバインダー(稲を刈り取って束ねる機械)を再びぬかるみに沈めてしまって、農協さんに連絡しました。隣の田んぼの主には「またやった!」と言われるは、農協さんには「春に注意したことを守っていない。」と説教されること約半時間。長かったですー。(できの悪い生徒の気持ちが分かります。)
青穂塾では、幼児から小学生の間、自然観察や農業の勉強のため田んぼや畑を見学します。この時農家とお話しすることが多いのですが、皆さん異口同音に次のようにおっしゃいます。
「米作りみたいなもん、なんにももうからへん。」
「先祖さんからのリレーで引き継いだ田んぼを、ワシの代で終わらせると先祖さんに申し訳ないからやってるだけや。」
実際に私自身が米作りを始めてみると、その意味がよく分かりました。
(1)米作りの機械をすべて新品でそろえると1000万円を超えてしまいます。(したがって私はすべて中古を買いました。)そういえばある農家が、「ベンツを買えるだけのお金がかかる。」とおっしゃっていました。ところが田植機、コンバイン、籾乾燥機、籾すり機、選別機は、1年に1回使うだけ。(小規模農家では1日だけ。トラクターだけは何回も使います。)しかも始業点検、使用後の整備をする必要があります。こうなると機械代や点検整備が大変なので、機械を使う農作業をほかの農家に委託してお金を払って済ます農家がけっこうあります。(私は籾すり、選別を業者さんにお願いしています。)
(2)田んぼの近くを通ると人がいないから、ほったらかしのように見えますが、そうではありません。けっこう手間がかかります。
これは奈良県のHP(水稲「ひとめぼれ」を作りこなすための7つのポイント https://www.pref.nara.jp/secure/261432/02hitomebore.pdf)
に掲載されている記事ですが、「ポイント」だけでもこれだけあります。例えば「水管理」
を見てください。田んぼの水は適当に入れているわけではありません。稲の成長時期にあわせて水深を調節しています。これ以外にも夏の高温期には田んぼに水を絶えず入れて掛け流し状態にし、冷やす必要があります。私の妻は新潟県出身ですが、夏でも気温が低いときがあります。そんな場合、朝から田んぼを満水にしておき太陽熱で水を温め夜から翌朝までの温度が下がらないようにします。
(3)機械代以外にも肥料代、農薬代がかかり、手間をかけて米を作っても、安い値段でしか売れません。したがって農家の仕事を時給で換算すると10円にしかならないそうです。私自身は計算したことがありませんが、この数字に違和感を覚えません。その結果、私の周りでは、皆さん兼業農家です。そうでないと生きていけません。だから米作りをしているのは高齢者ばかり。しかも儲からないから、それほど熱心にしません。管理が悪くて雑草だらけの田んぼもあります。条件の悪い田んぼは耕作放棄してしまいます。
こんな状態ですから、米不足になるのは当たり前です。小規模の田んぼに将来はありません。では大規模の田んぼはどうでしょうか?私の生活する奈良盆地北部、京都盆地南部に限っていえば、新しい高速道路ができ、その周りに工業団地ができて条件のいい大規模の田んぼが次々に潰されていきます。米を作っても利益が出ませんから、高額で土地を買ってもらえるなら、先祖さんに申し訳なくっても土地を手放してしまいます。米不足にならない方がおかしいのです。
こう考えてみると、令和の米騒動は起こるべきして起こったのです。さらに米を作っている立場から言えば、米の値段が高くなったのではありません。安すぎた値段が本来の値段に近づいただけです。もっと米の値段が上がらないと、農家は米を作ってくれませんよ。それでは消費者が困るというなら、政府が補助金を出すべきだと私は思います。
(ここまでは2024年9月末に書いた文章です。この後は2025年5月中旬に追加した文章です。)
昨年から今年にかけての報道を見ていますと、ようやく米作り農家に対しての適切な理解が進んできたと感じます。でも農家はそれほど浮かれてはいません。私の田んぼがある奈良市東部山間部では5月の連休中に半分以上の水田で田植えをしてしまいますが、観察していると休耕田を水田に戻している実例はありません。
ある水田などは立派な広い水田なのですが、耕作面積を減らしています。この水田は管理が悪く雑草だらけです。おそらく耕作主は地元を離れ奈良の市街地などに住んでいて、そこから休日などに通っているために管理に手が回らないのだと思います。こういう例はどんどん増えてきています。特に親が高齢化したために子供が引き継ぐ場合、子供は会社員などになり米作りを兼業することになりますので、ほとんどこうなります。少し米の値段が上がったくらいでは、影響は微々たるものだからです。
私も「転売ヤー」らしき人から連絡を受けたことがありますし、近隣の農家の方に聞くと、農協ではなくほかの集荷業者に売っている方がおられます。その場合、業者名や売値は教えてくれません。おそらくこういう状況で米の値段が上昇しているのだと思います。零細農家は自家用以外の米の保管倉庫など持っていませんので、秋のうちに米を出荷してしまします。したがって冬以降の米の値上がりには、零細農家は何の関係もありませんし、恩恵も受けていません。



