「親の判断能力に不安を感じる方」のための遺言書の書き方
「貸金債権を相続させる方」のための遺言書の書き方
こんにちは、「遺言書作成サポート」宮城県名取市まさる行政書士事務所 菅野勝(かんのまさる)です。
今回は、【遺言書の書き方講座 財産編 vol.15】として、『「貸金債権を相続させる方」のための遺言書の書き方』についてお伝えしたいと思います。
遺言書を作成する皆様共通のメリット・理由は、相続開始時に面倒な遺産分割協議書が不要となり、相続手続きを円滑に進められることです。
遺言を作成しようと思った時に知っておきたいチェックポイントを解説します。
貸金債権の特定について
ここでは、金融機関に対する「預金債権」ではなく、特定の個人や法人を相手にした取引によって生じた「金銭債権」のうち、「貸金債権」(誰かにお金を貸し、お金を返して貰う権利)を相続させる場合についてお話をします。
金銭債権には「貸金債権」が一般的ですが、このほか、「賃料債権」や「売買代金債権」など様々な種類があります。
まず、貸金債権を特定するために金銭債権の発生原因となった契約が基礎となります。
契約書があれば、契約書によって①当事者、②契約年月日、③契約の類型を特定させます。
そして、④債権金額、⑤支払期日のほか、各契約類型における⑥特約(貸金債権の場合は利息や損害金の定め、売買代金債権や賃料債権の場合には対象たる目的物など)によって貸金債権の特定を行います。
条項例
第○条 遺言者は、遺言者のB(昭和○年○月○日生、住所:○○県○○市○○町○○)
に対して有する次の貸金債権を、妻A(昭和○年○月○日生)に相続させる。
遺言者を貸主、Bを借主とした次の内容の金銭消費貸借契約に基づく貸金債権
元金 ○○万円
契約日 平成○年○月○日
弁済期 平成○年○月○日
利息 年○パーセント
遅延損害金 年○パーセント
金銭債権における法律上の問題
指名債権の譲渡は譲渡人(お金を貸した人)が債務者(お金を借りた人)に通知をし、又は債務者(お金を借りた人)が承諾しなければ、債務者その他第三者に対抗できません(民法467①)。
相続又は遺贈時には、既に譲渡人は存在しませんので譲渡人からの通知はできません。
遺贈の場合、判例によって、「遺贈義務者」の債務者(お金を借りた人)に対する通知又は債務者(お金を借りた人)の承諾がなければ、受遺者は遺贈による債権の取得を債務者に対抗できない(最判昭49・4・26判時745・52)とされています。
相続人は、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継しますから(民法896)、「遺贈義務」は、一次的には「相続人が負います」。
遺言書がなく遺言執行者の指定もない場合、受遺者が遺贈を受けた債権の回収を実現させるには「遺贈義務者」の協力が不可欠と言えます。
また、包括受遺者が定められている場合には、包括受遺者が「遺贈義務者」となります(民法990・896)。
相続人等の「遺贈義務者」の協力が得られないことが想定される場合には、金銭債権の承継に支障を来します。
このような金銭債権における法律上の問題に備えて、遺言書で「遺言執行者」を指定しておくことが必要であると言えます。
なぜならば、遺言執行者がいる場合には遺言執行者が「遺贈義務者」となるからです(民法1012①)。
今回は、以上となります。