マスト(Must)は何か
納入先から、過去に設計された現行品の変更依頼を受けたことがありました。
内容自体は一部の仕様変更。しかし検討を進めるうちに、ある疑問に突き当たりました。
「なぜ、現行品はこの仕様になっているのか?」
変更依頼とも関係する重要な部分でしたが、その理由が分からないのです。
設計はずいぶん昔のもので、当時の担当者はすでに退職。社内に残っていたのは、最終仕様書と最終図面のみ。そこには“結果”はあっても、“経緯”はありませんでした。
納入先にも確認しましたが、状況は同じ。当時の担当者は既に在籍しておらず、現在の担当者では経緯は分からないとのことでした。
結局どうなったか。
変更箇所だけでなく、関連する部分も含めて一から再検討することになりました。安全性、性能、コスト、規格適合性――すべてを改めて確認し、納入先の了承を得ながら仕様を再決定。単なる「変更対応」のはずが、実質的には「再設計」に近い作業となり、多くの時間と労力を要しました。
■ この経験から得た教訓
仕様決定や設計フィックスまでの「なぜ」を必ず残すこと。
・なぜこの方式を採用したのか
・なぜこの数値にしたのか
・なぜ他案を採用しなかったのか
・どんな懸念があり、どう判断したのか
議事録や打合せ記録だけでなく、検討過程のメモや考察も重要な技術資産です。
設計の成果物は図面や仕様書ですが、本当に価値があるのはそこに至るまでの思考の履歴です。
たとえ担当者が在籍していても、数年後に詳細を正確に説明できるとは限りません。時間が経てば経つほど、記憶は薄れます。そして人は必ず異動し、退職します。
特に人事異動の多いこの時期こそ、注意が必要です。
「今わかっているから大丈夫」
この油断が、将来の大きな手戻りを生みます。
設計の“完成”とは、図面を出図することではありません。
設計意図を次世代に渡せる状態にして、はじめて完成だと私は考えています。
あなたの設計には、「なぜ」が残っていますか。



