データが盗まれるとは?
「顧客から依頼を受けて設計し、試作品を製作して納入した。しばらくは問い合わせが続いていたのに、ある日を境にぱったり連絡がなくなった。量産の注文も来ない。」
こんな経験はないでしょうか。
手応えはあったはずなのに、結果につながらない。技術者としては理由も分からず、消化不良のまま案件が終わってしまう――実はこの裏には、あまり表に出ない“現実”が潜んでいることがあります。
考えられる2つの理由
このようなケースでは、主に次の2つが考えられます。
① 先方の社内事情で案件自体が不要になった場合
予算凍結、方針転換、担当部署の再編など、客先の事情で計画が消えることは確かにあります。ただ、この場合は「今回は見送ります」など、何らかの連絡が来るのが普通です。
② 依頼先が他社に変更された場合
こちらのほうが厄介です。この場合、ほとんど連絡は来ません。そして高い確率で、納入した試作品が“サンプル品”として別の会社に渡っています。
私自身が見た“逆の立場”の現場
実は私は、逆の立場を何度も経験しました。
新製品の設計案件で客先を訪問すると、すでに机の上にサンプル品が置いてあります。そしてこう言われるのです。
「これと同等、あるいは改良品を作りたい。いくらでできますか?」
さらに踏み込んで、
「これは○○社が作った試作品です。○○社の見積□□円より安くできませんか?」
と言われ、図面まで渡されたこともあります。図面には、元の設計会社の社名がそのまま入っていました。
そのとき強く思いました。
“こういうことが普通に行われているなら、我々の試作品も同じ扱いを受けている可能性がある” と。
しかも、そうしたことをしていたのは、誰もが知る大手企業でした。
なぜ後発の会社は安くできるのか
サンプル品と図面が手元にある状態での設計は、ゼロからの開発とはまったく負荷が違います。
・ 構造の目星がついている
・ 成功例・失敗例が見えている
・ 性能の基準が分かっている
つまり、設計リスクと工数が大幅に減るのです。
その分、見積は当然安くなります。
後発側にとっては“おいしい話”。
しかし、最初に時間とコストをかけて試作した会社にとっては、あまりにも不条理です。
もう一つの問題:開発費は回収できているのか
さらに気になるのは、最初に試作した会社が、
・ 設計開発費
・ 試作費用
をきちんと回収できているのか、という点です。
現実には、
「量産で回収できるから、開発費は安くしておこう」
という営業判断はよくあります。ところが量産が他社に流れた瞬間、その“皮算用”は崩れます。
結果として、技術だけを提供して赤字で終わる、という最悪のシナリオも起こり得るのです。
こうした事態を防ぐための3つの対策
理不尽に見える話ですが、対策がないわけではありません。最低限、次の点は契約段階で検討すべきです。
① 知的所有権の帰属を契約に明記する
提出した試作品や設計情報の権利が誰に帰属するのか。
ここを曖昧にしないことが第一歩です。
② 設計費・試作費を製品代とは分けて請求する
開発費を量産前提で値引きしないこと。
仮に知的所有権が相手に移る契約になる場合は、“権利を渡す価格”として損のない金額を請求する意識が重要です。
③ 第三者への開示を禁止する契約を結ぶ
試作品や図面を他社に見せないことを、契約で縛る。
これがあるだけでも、安易な横流しへの抑止力になります。
技術だけでなく「守り」も設計のうち
技術者はどうしても「良いものを作る」ことに意識が向きがちです。
しかし実務の世界では、
技術を守る仕組みまで含めて、設計である
と言っても過言ではありません。
試作品は、単なるモノではなく、
時間・経験・ノウハウの塊です。
それを無防備に差し出すのではなく、
正当に評価される形で提供できているか――
一度、自社の契約や見積の出し方を見直してみる価値は十分にあるはずです。



