生産性と生産効率
現在、私たちの身の回りには、スマートフォン、ノートPC、家電製品など、多くの製品にリチウムイオン電池が使われています。その一方で、発火事故のニュースも耳にします。製品の不具合が原因の場合もありますが、実は「使い方」が原因となる事故も少なくありません。今回は、リチウムイオン電池の仕組みと発火リスク、安全に使うポイントについて分かりやすく解説します。
1.リチウムイオン電池の特徴
リチウムイオン電池には、次のような優れた特性があります。
1)エネルギー密度が高いため、小型・軽量化ができる
2)電圧が高いため、機器側の回路設計を簡素化できる
3)電解液が有機溶媒で分解しにくく、長寿命
4)メモリー効果がないため、継ぎ足し充電しても問題ない
これらの特徴により、現在のモバイル製品には欠かせない電池になっています。
2.リチウムイオン電池の反応原理
リチウムイオン電池は、以下の材料で構成されています。
• 正極:コバルト酸リチウム等の活物質を塗布したアルミ
• 負極:炭素等の活物質を塗布した銅
• セパレーター:リチウムイオンだけを通す絶縁性の樹脂膜
• 電解液:電解質を溶かした有機溶媒
(1)充電時の動き
1)正極側のリチウムイオンが溶け出す
2)余った電子が負極に移動し、負極がマイナスに帯電
3)負極側で炭素とリチウムイオンと電子が結合する
→ この状態が「充電された状態」です。
(2)放電時の動き
1)負極側のリチウムイオンが溶け出す
2)余った電子が外部回路を通って正極へ移動
3)正極側でコバルト酸リチウムとリチウムイオンと電子が結合する
→ この電子の流れが、私たちが使う「電気エネルギー」になります。
3.リチウムイオン電池の構造
正極・負極・セパレーターを重ねてロール状に巻き取り、電解液に浸した構造になっています。
正極と負極はセパレーターでしっかり隔てられ、電解液はイオンの通り道をつくります。
4.リチウムイオン電池はなぜ発火するのか
発火の主な原因は、内部で正極と負極がショート(短絡)することです。
短絡すると一気に発熱し、その熱がさらに反応を加速させる「熱暴走」が起き、制御不能な高温に達して発火します。
リチウムイオン電池の材料は、電解液(有機溶剤)、セパレーター(樹脂)など可燃物で構成されており、異常が起こると火災につながりやすいという弱点があります。
発火リスクを高める要因
1)電極同士が非常に近いため、外力でセパレーターが破損しやすい
2)過充電・経年劣化により、リチウム金属が析出し短絡を起こす
3)エネルギー密度が高く、短絡時の発熱量が大きい
4)電解液が可燃性のため、着火すると大きな火災に発展
5)一度熱暴走が起こると、温度制御ができなくなる
発火につながるメカニズム
① 外力が加わった場合
• セパレーター破損による内部短絡
• 電解液漏れによる反応熱やガスの着火
• 正極材料の粉砕による急激な反応
• 劣化により析出したリチウム金属が短絡を引き起こす
• 外装のヘコミによるセパレーターの局部的な破損
② 高温下に放置した場合
• 負極の保護膜が壊れ、電解液と直接反応
• 電解液が120℃付近で急速分解し、可燃性ガス発生
• 正極が酸素を放出し、電解液と反応して急激に温度上昇
• セパレーターが溶けて短絡
• 熱暴走の連鎖反応で発火・破裂
③ 過充電を繰り返した場合
• 正極が分解して酸素を放出、電解液と反応して発熱
• 負極の保護膜が壊れ、ガス発生
• 過剰なリチウム析出による短絡
• これらが重なり熱暴走へ
④ 経年劣化した場合
• 負極保護膜の劣化による発熱
• 電解液の劣化とガス発生
• 正極の強度低下による酸素放出
• 内部抵抗が増加し発熱しやすくなる
• セパレーターの劣化・収縮
• リチウム析出による短絡
5.リチウムイオン電池を安全に使うために
(1)保管・移動・使用時の注意
1)外力を避ける
• 落とさない
• ポケットに入れたまま転倒しない
• ペットが噛まないようにする
2)高温にさらさない
• 車内(特にダッシュボード)に置かない
• 直射日光が当たる場所に放置しない
3)過充電しない
• 100%充電を何度も繰り返さない
• 満充電後は充電器から外す
4)劣化に気づく
• 電池が膨らむ
• 充電容量が低下する、持ちが悪くなる
(2)廃棄時の注意
リチウムイオン電池は 絶対に一般ごみに捨ててはいけません。
必ず自治体のルールに従い、適切に処分してください。
誤って一般ごみに混入すると、ゴミ収集車や処理施設で発火し、大きな事故につながります。近年、処理施設の停止を招く重大事故も増えています。
リチウムイオン電池が使われている代表例
スマートフォン、ノートPC、ワイヤレスイヤホン、電動工具、モバイルバッテリーなど「充電できるほぼ全ての製品」
リチウムイオン電池は便利で高性能ですが、正しい使い方を知らないと危険を伴うことがあります。仕組みを理解し、丁寧に扱い、安全に活用していきましょう。



