本当に漆喰が必要?棟の積み直し
屋根塗装には必ず「縁切り」という工程が必要になってきます。一般の方にはなかなか馴染みのない言葉ですが、屋根の耐久性にも関わってくる作業です。縁切りは屋根塗装をする前に是非知っておいてほしい言葉です。
縁切りの必要性
縁切りとは、「屋根材の隙間に入った塗料を取り除く作業」です。
カラーベストやコロニアルなどの、薄いスレート屋根の塗装工事で非常に重要性の高い工程になります。
屋根の隙間は雨水の出口
屋根材には様々な種類がありますが、どの屋根も1枚1枚の屋根材が重なり合ってひとつの屋根を形成しています。この屋根材が重なり合っている部分には少し隙間ができています。屋根材の隙間は「屋根の内部に入った雨水を排出する」という非常に大切な役割をもっています。
しかし、カラーベストのような薄い屋根材の場合、屋根塗装をすると屋根材同士が重なった部分の隙間が塗料によって埋まってしまいます。屋根材の隙間が塗料によって塞がれてしまうと、雨水が屋根材の裏側に溜まってしまい、屋根材の下にある防水シートや野地板の劣化を早めてしまう恐れがあります。
縁切りをすることで、雨水が屋根材の裏側に溜まるのを防ぎます。
縁切りのタイミング
縁切りは「塗料が完全に硬化した状態で行うべき」とされています。
塗装をした翌日など塗料が完全に乾ききっていない状態で縁切りをしても、隙間の周りの塗料が再度くっついてしまうので縁切りをした意味がなくなってしまいます。
そのため、縁切りは屋根の塗装が終わって塗料が完全に硬化した時点での作業になります。固まった厚みのある塗料に手作業で切れ目を入れていくので、作業にはかなりの時間がかかります。
縁切りに使用する道具
縁切りの工程では職人がカッターナイフや皮スキと呼ばれる専用の道具を使って、手作業で屋根材の隙間の塗料を剥がしていきます。
そのため屋根の広さによりますが、30坪ほどの一般住宅の場合、職人2人がかりで丸一日の作業になり、非常に時間と手間がかかります。また、縁切りを行う際に屋根の上を移動するため、せっかく塗装した屋根の表面を踏んでいかなければなりません。
これらの従来の縁切りの難点を解消するために、近年では「タスペーサー」と呼ばれるものを使った縁切り作業が多くの塗装業者で使われています。
タスペーサーを使うタイミング
縁切りは塗料が完全に乾いたタイミングでの作業ですが、タスペーサーは塗装の途中の段階で使います。
屋根塗装の基本的な流れは「屋根洗浄→下塗り→中塗り→上塗り」という手順になります。屋根洗浄が終わったら、最終的な仕上がりが良くなるようにシーラーなどの下地材を塗り、塗料の密着性が高まるようにしておきます。この下塗りが終わった時点でタスペーサーを屋根材の隙間に差し込んでいきます。
タスペーサーを差し込んでおくと、この後の中塗りや上塗りの塗料が屋根材の隙間を埋めてしまうのを防ぎます。タスペーサーを使うと塗料が乾いた後に手作業で塗料を剥がして隙間を作る作業が不要になり、人件費や工事期間を省けます。
タスペーサーを使えないこともある
タスペーサーは「勾配が3寸に満たない緩勾配の屋根」や「屋根材の隙間が元々4ミリ以上開いている屋根」などのときには使えません。
傾斜が緩やかな屋根にタスペーサーを使うと、誤って屋根材を傷める恐れがあります。また、隙間が大きすぎるとタスペーサー自体が安定せず、結局従来の縁切りをしなければなりません。
これらのように、「どんな屋根でもタスペーサーが使えるというわけではない」ということを頭に置いておくとよいでしょう。
縁切りをしないリスク
ページ冒頭でも紹介した通り、屋根材同士が重なっている部分は、雨が降ったときに屋根の内部に雨水が溜まらないような構造になっています。
棟板金から水が出てくる
この写真は縁切りがされていないため、棟板金を解体するときにバールを差し込んだら中から雨水が出てきた様子です。
屋根の内部に水分が溜まった状態が続くと、以下のようなトラブルが発生する恐れがあります。
屋根下地材の劣化
排水されない雨水が毛細管現象によりどんどん雨水を引き寄せ、屋根の下地材を腐食させる恐れがあります。
屋根の下地はルーフィングと呼ばれる防水シートが敷いてあるため、少々の水であれば下地材を腐らせたり、室内まで浸水したりすることはありません。
しかし、長時間雨水に晒されたルーフィングはやがて劣化して穴が開いてしまい、水分が屋根内部にまで達して雨漏りに繋がってしまいます。
毛細管現象とは
毛細管現象とは、重力に関係なく狭い隙間に液体が浸透していく現象です。普段の生活の中で例えるなら万年筆の仕組みや、水に部分的にしか浸けていないタオルが全面濡れているのも毛細管現象によるものです。
屋根で毛細管現象が起こると、ルーフィングの繊維に水が染みわたって野地板を濡らし、雨漏りを起こすことになります。
「塗装工事をしてから数年後に雨漏りを起こす」ということも少なくありません。これは、「雨水が徐々に染みわたり野地板を通り天井にたどり着くまでに乾燥や雨染みを作る」が繰り返えされるからです。
雨が降らなければ気付くこともなく、大雨の後に気付いても、その時点では「屋根塗装が原因」とは思いつかず、原因が分からないケースもあります。
屋根の通気性がなくなる
縁切りをしないと隙間が塞がれてしまうため、屋根の通気性が失われてしまいます。
そのため、屋根内部に水分だけでなく湿気もこもってしまい、腐食がさらに加速してしまいます。せっかく塗装をしても、縁切りをしなかったためにこのような症状が起きてしまっては意味がありません。
縁切りは屋根そのものだけではなく、家全体を守ってくれる非常に重要な工程と考えて良いでしょう。
縁切り作業の費用
日本の住宅の平均的な規模である約30坪ほどの場合、タスペーサーは約1000個程度使います。
「タスペーサーという特別な材料を使うため、職人の手作業よりも費用が高くなるのでは?」と感じる方も多いかもしれません。しかし手作業での縁切りは職人の手間賃と工期が増えるため、タスペーサーを使う場合の約2~3倍の費用がかかってしまいます。
つまり、タスペーサー工法は「費用面・作業面ともに従来より優れた工法」と言えるでしょう。
縁切り作業を行わない業者?
縁切りは屋根の耐久性に関わる重要な作業なのに、縁切りをしない業者もいます。
なぜ手抜きされるのか
「縁切りをしない」がなくならない理由として、「縁切りという専門用語について理解していない方が多い」があります。
縁切りという作業を知らなければ工事前に縁切りについて確かめようがないので、手抜き業者などは当たり前のように縁切りの工程を省いてしまうのです。
または、施主様が縁切りを知っていて見積りに縁切りの作業がないことを指摘しても、「この屋根は縁切りは必要ない」と嘘をついて縁切り作業の不要性を主張してくる悪質な業者もいるかもしれません。
屋根塗装後の雨漏り事例
「屋根の塗装工事をしてから雨漏りするようになった」とお困りのお家で屋根葺き替え工事をさせていただくことになり、既存のカラーベスト屋根をめくると、中の下地が腐食していました。
縁切りが施されていなかったため、屋根の内部に雨水が溜まってしまい、防水シートもボロボロの状態でした。
屋根の先端部分(軒先)と面の端の部分(ケラバ)には特に雨水が溜まりやすく、腐食も起こりやすいです。
縁切りについてのまとめ
縁切りは屋根塗装という家の耐久性を保つための工事のなかでも、特に重要な意味をもつ工程です。
「屋根自体を守る」にとどまらず、室内に雨漏りを起こさないためにも必ずやっておかなければなりません。しかし、縁切りという工程は一般的にあまり知られていないこともあり、塗装業者から縁切りを省かれたまま気付かず、工事後に雨漏りが起きて初めて気付くという事例も起きているのが現実です。