借金が返せなくなりそうなとき、どうすればいい?
10月は2週連続で台風が来て、大変な天気でしたね。
私も事務所で強風の音を聞きながら仕事しておりました。
さて、今日は「民法改正って何がどうなるの?」というテーマで
民法改正に関するご説明を
事例に基づき行いたいと思います。
すでに民法の改正は決まっており、
2020年(平成32年)の6月2日までに、改正民法が施行されます。
民法の大改正であり、改正点は多岐に上ります。
個人的に大きいと感じる改正点は
「連帯保証人の保護の制度の導入」
「法定利率の変更」
「時効の制度の変更」
の3つかと思います。
ですので、この3つを中心に、事例に基づき解説したいと思います。
【事例】
Xは、個人で会社に勤める者であったが、2020年6月30日に、友人Yから、200万円の事業資金の借入を申し込まれた。
Xは、友人Yが返済するかどうか不安であったので、XはYとの間で、「XはYに対し、元本200万円を2020年7月31日に貸し付け、その後8月31日以降毎月10万円ずつ20回に分けて返済する(利息なし)。返済が2回以上滞った場合、Yは期限の利益を喪失し、残金を一括して返還する」という内容の消費貸借契約を締結し、併せて、XはYの友人のZとの間で連帯保証契約を締結した。
しかし、Yは、2020年11月30日以降、毎月10万円の支払を怠るようになった。
そのため、Xは、2021年1月15日に、Yに対し、「期限の利益を2021年1月1日に喪失しました。つきましては、残元金170万円と、これに対する2021年1月1日から支払済みまで年5%の遅延損害金を払ってください」という通知を送付した。
しかし、Yは支払わないまま、2027年の1月15日になってしまった。
Xは、連帯保証人のZに対し、残元金170万円と、これに対する2021年1月1日から支払済みまで年5%の遅延損害金を求めようと考えている。
かなりややこしい事案になってしまいました。
さて、現在の民法では、この事案については、以下のような答えになります。
(1)XとZとの連帯保証契約は有効
(2)期限の利益を喪失してもXはZに通知する義務はない。
(3)遅延損害金として法定利率の年5%を請求できる
(4)債務の消滅時効期間は原則10年
(5)そのため、XはZに対し、残元金170万円と、これに対する2021年1月1日から支払済みまで年5%の遅延損害金を求めることができる。
ところが、改正後の民法だと、この事案については、以下のような答えになってしまうのです。
(1)XとZとの連帯保証契約は、Zの公正証書による連帯保証の意思を示した書面が作成されていないので無効
(2)期限の利益を喪失した場合、2ヶ月以内にXはZに通知する義務があり、通知していない場合は遅延損害金の請求は制限される。
(3)遅延損害金の法定利率は年5%ではなく、当初は3%、その後は3年ごとに見直しを行うこととなる。
(4)債務の消滅時効期間は、「権利を行使できるときから」10年または「債権者が権利を行使できることを知ったときから5年」のうち早い日。そのため、2027年1月15日は、権利を全額行使できることを知った日である2021年1月21日から5年以上経過しており、消滅時効期間が経過している。
(5)そのため、XはZに対し、残元金170万円と、これに対する2021年1月1日から支払済みまでの遅延損害金を求めることはできない。
なぜ、このような大きな違いが生じるのでしょうか。
以下、解説していきます。
1.公正証書の作成義務
事業のために負担する借入金等につき、債権者と第三者が
連帯保証契約を行おうとする場合は、
保証人になろうとする者が債務者の代表者や理事などではない場合、
保証契約から1ヶ月前以内に作成された公正証書で、
保証人になろうとする者が保証の義務を果す意思を表示しなければならない義務が
生じました。
そして、この公正証書が作成されなかった場合
保証契約自体が無効となってしまうのです。
保証人は重い責任を負わされるので、
安易に保証人になることを避け、もって保証人を保護するための規定です。
2.期限喪失後の保証人への通知義務
主たる債務者が期限の利益を喪失したときは、債権者は2ヶ月以内に保証人に通知しなければならなくなりました。
また、通知がない場合は、遅延損害金の請求が制限されることになりました。
遅延損害金の拡大を防止し、保証人を保護するためです。
3.法定利率について
法定利率は、遅延損害金の算定の場合や、交通事故にいう逸失利益の算定の中間利息控除の場面(利率が低い方が被害者に有利)で問題になります。
現在は5%ですが、現在の低金利の社会情勢を踏まえ、改正後は、改正時は3%とし、その後、固定せず3年ごとに見直しすることになりました。
4.消滅時効制度の変更について
現在の民法は、消滅時効期間を原則10年としつつ、商事債権(たとえば商人が貸主の場合の貸金債権など)については5年とし、さらに様々な短期消滅時効の制度を設けています。
しかし、改正後の民法は、このような商事債権の取り扱いや様々な短期消滅時効の制度を廃止しています。
その上で、原則として、
「権利を行使できるとき」(客観的起算点)から10年、
または
「債権者が権利を行使できることを知ったとき」(主観的起算点)から5年
のいずれかの期間が経過すれば、消滅時効期間が経過したことにしています。
多くの場合で、主観的起算点が採用されるので、
消滅時効期間は実質的には5年が多くなるのではないかと考えられます。
本件の事例では、債権者Xが権利を(債権全額につき)行使できることを知ったときは、全額の請求を行った2021年1月15日だと思います。そのため、そこが主観的起算点となり、そこから5年以上経過しているため、消滅時効期間が経過したことになります。
5.まとめ
このように、今回の民法改正は、実務的にも大きな影響を及ぼすものです。
今後の契約内容や、現在の個別の事案などで少しでも疑問に感じられた点がありましたら、
インターネット等での情報収集等に加え、
是非、契約の無効や時効などにより取り返しがつかなくなる前に、
当事務所にご相談されることをお勧めいたします。