冬場の帽子
角川文庫。北条民雄。
絶版となっていた筆者の作品が復刻された。
ハンセン病となった筆者が、施設に入所した際の出来事や施設での出来事を元に書いた作品群である。
作品中では、ハンセン病ではなく、らい病とされている(私に差別の意図はなく、作品の紹介であるためであることをお断りしておく。以下も同様である。)。
らい病が差別されており、焼いた骨からも感染するとされていた時代、川端康成は医師にらい病のことを聞き、科学的知識で差別することなく、この不世出の作家の作品を世に送り出した。筆者から送られてくる原稿用紙は、消毒液で濡れていて、川端康成はそれを乾かして読んだということである。
その作品性の高さ、文学的完成度、筆者の慟哭の声、患者の慟哭の声がひしひしと伝わる作品である。
筆者の命を奪ったのは、しかし、らい病ではなく、腸結核であった。
23歳で夭折した不世出の作家の声を我々は今聞くべきである。