読書日記「百年の孤独」
吉川英治原作の宮本武蔵を描いたバガボンド(井上孝彦、講談社)というマンガで、風呂屋で宮本武蔵と柳生兵庫助が(お互い素性を知らず)邂逅する場面がある。
風呂が嫌いかという兵庫助に対して、武蔵は「嫌いだ」と返事をし、柳生兵庫も風呂は嫌いだと話をする。
垢が落ちるとともに、心の構え(いつ斬りかかられてもいいように瞬時に対応できるような構え)が解かれてしまう気がするからだろうと兵庫は武蔵に告げ、武蔵が喜んだ顔をすると、兵庫は、「あんたは自分と同じ気がした」という趣旨の回答をする場面である。
弁護士もこうした心の構えは大事だと思っているので、長期間休むことができないのかと思ったことを記憶している。
現代人なので毎日風呂は入るが、ずっと気を張り続けていてもいけないけれども、弁護士の仕事上、心の構えが緩むとミスを起こしかねず、たくさん休むと心の構えを取り戻すまで時間がかかる気がする。
以下は余談なので、興味のある人だけ。
伝承では、宮本武蔵と柳生兵庫は若い頃出会ったことはなく、柳生兵庫が名古屋藩の剣の指南約としている時に、偶々城下に来ていた武蔵とすれ違い、「久々に生きた人を見た。さだめし貴殿は柳生兵庫助殿であろう」「そういうあなたは宮本武蔵どのですね。」として、囲碁を打ち合ったが剣は交わさず別れたというものがある。
柳生新陰流の正統は、柳生石舟斎から柳生兵庫助に相伝されている。有名な柳生宗矩は正統な相伝者ではない。
渡辺幸庵という120歳になるという老爺に昔のことを聞き取りさせた話がまとめられているが、新陰流の印可をもらっているという渡辺幸庵自身が、柳生宗矩と武蔵とを比較して、「囲碁にていわば、井目も武蔵強し」と述べている史料がある。
おそらく、武蔵と兵庫助は互角の腕前であったろうと思われ、兵庫も柳生宗矩と比較すれば、井目も強しだったのではなかろうか。