カルテに基づく準備書面

中隆志

中隆志

 交通事故の被害者事案で、カルテに基づく準備書面を年間相当数作成する。

 保険会社側は、保険会社側の医師であったり、調査会社がサマリー的なものを作って意見書を出してくるので、保険会社側の代理人は少なくとも被害者側代理人よりは楽なはずである。
 私のように基本被害者しかしない弁護士は、自分でカルテを読み込み、カルテから事実を拾い、被害者のために有利となる評価の準備書面を作成する(それしかない。医学的なところは文献をたくさん出す)。
 特に、高次脳機能障害を負われた被害者の方だと、治療期間も長いことが多く、カルテに基づく主張は長文となることが多い。
 準備書面はある程度短い方がいいのは分かっているが、カルテに基づくものだけは別である。
 保険会社側の代理人が、後遺症の程度や有無を争っていない場合でも、カルテに基づいて治療経過の書面を被害者側で作成することは必要だと考えている。
 高次脳機能障害を負われた方は、事故直後は死に直面していることも多く、カルテに家族の言葉や悩みなども書かれていることがあり、また、ご本人自身、気管挿管や気管切開がされたり、拘束されて苦しんでおられたり、家族がいる間拘束が外すことができたり、懸命に家族とともにリハビリをされている姿など、症状固定した後の回復した姿だけでは分からないご本人と家族の苦労がカルテに記載されている。
 結果だけを裁判所に示すのではなく、こうした治療経過を整理することで、入通院期間を通じた慰謝料であったり、付添費用であったり、ご家族の固有の慰謝料であったりということが主張できると考えているので、分厚いカルテと時には格闘している。
 少し前に3000枚のカルテを整理した準備書面を書いて、これは割合いい判決をもらうことができて一審で確定した。
 しばらくはこれだけのカルテを整理した準備書面を書くことはないであろうと思っていたが、また3000枚のカルテに基づく準備書面を書くこととなり、今作成中である。これも高次脳機能障害を負われた方の事案で、できるだけのことをしようと考えている。案の段階で69頁ある。
 なぜか同時期に15㎝程度の分厚さがある損害賠償の事案のカルテに基づく準備書面も作成する必要があり(相当高い等級を主張している事例である)、そして同時期に別件の高次脳機能障害のカルテに基づく準備書面も作成する必要がある。

 苦にならないかと言われると、私も人間なので相当労力を使うし、作成しきると本当にどっと疲れる。
 辛い治療経過を書面にすることも精神的に疲れる。
 しかし、それが私の仕事であるし、特に高次脳機能障害を負われた方のためにできることは将来の不安を少しでも軽減するために1円でも多く賠償金を獲得することしか私にはできないので、やりきるしかないのである。

 最近、70歳になった時にこの作業ができるかとやや不安に思っているところである。

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