ドライ過ぎてもいけず、ウェット過ぎてもいけず

中隆志

中隆志

 依頼者との距離感は難しい。ウェット過ぎて、一体化しても弁護士としての職責が果たせないし、ビジネス的にドライ過ぎるのも法人の事件だとあり得るが、個人の依頼者だとそうもいかない。

 交通事故の被害者で、重篤な被害が残ってしまった事案、被害者がお亡くなりになった事案では、ウェット過ぎることはできないが、依頼者のために泣いてしまうこともある。
 被害者参加でご家族が法廷でむせび泣いているのを聞いて、涙をこられられなかったことも何度かある。
 刑事事件で、被害者や被害者のご家族の思いをどれだけ裁判所に理解してもらえるかしか、弁護士にできることはない。

 民事では、訴状や陳述書を書いていると、辛くて中断することもある。
 重い障害を負って、ある程度回復された方でも、カルテを基に治療経過を書いていると、その治療経過でどれだけ辛かったかがカルテに記載があり、それを見ると依頼者の為に頑張らないといけないと思うし、今はある程度回復しているけれど、そこに至る過程ではこれだけ辛い思いをご本人もご家族もしているのだということを裁判所に理解してもらいたいと思うので、それを書面化していく。民事的には賠償金を取るしか、弁護士はできることはないからである(もちろん尋問で被害者の思いや現状を裁判所に理解してもらうということはできるが、最終的にはそれは賠償金額でしか見ることはできない。)。
 亡くなられた方も、その人がどういう人となりで、その人がいなくなったことでご家族がどんな思いをされているか、それをできるだけ出したい。
 事務局も誤字脱字チェックをしながら泣いていることもしばしばである。

 ただ、被害者と一体化しても弁護士としての仕事ができないので、そのあたりのバランスを考えながら、私の能力の範囲ではあるが、できることをしている日々である。

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