在りし日の小次郎
若い頃、区役所の法律相談で、毎回来られる高齢の方がいた。
耳が聞こえにくくなっておられて、補聴器をつけておられた。
大量の紙袋にたくさん資料を詰めておられて、20分の相談時間では聞くことができる部分が限られている。
少しずつストーリーが進んでいき、次は続きから聞くことにしていた。
その高齢の方は、次に私が来る時を役所の人に聞いて、そのときにきちんと来られるのである。
私も来られるだろうと思い、話が続くよう、毎回、前のメモを持参していた。
3回目で紙袋が破れて、床に資料が散乱し、資料を拾い上げるのに時間がかかり、次の相談開始時間が遅れた。
だいたい2ヶ月に一度担当しているので、5回目の時に、相談が佳境に入ってきた。
私がとうとう聞きたいところを述べていることは相談者にも分かったようで、相談者の方は、「なんですとー」と言って、耳につけていた補聴器のイヤホンを外して、イヤホンの方を私の口のところに近づけた。
いや、それ外したら、余計聞こえなくなるよ・・・。近づけるなら、集音している装置の方ですやん・・・。
そのことを説明するのだが、イヤホンを外されていたので、聞こえないため、身振り手振りで説明しているうち、時間切れとなった。
6回目は相談を完結できると思っていた。
6回目の相談の時に来られると思い、メモを持参したが、来られなかった。私は次の年は、違う役所の担当となったため、結末までいけずじまいであった。
20年以上前の話だが、あの高齢の人がその後どうなったのか、今も時々気になっている。