偽りの記憶

中隆志

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 何かの原因で、偽りの記憶を事実としてしまう人がいる。
 事実と全く異なる内容を記憶として残してしまうのである。
 そして、この場合、その記憶はその人にとっては「事実」なので、過去にあった事実とは全く異なる内容を「事実」として信じているので、過去に現実にあった事実の方が虚偽であるということになるのである。

 自らの方の問題を認めたなくがないばかりに、防御本能としてそのようになるのであろうかなどと考えているのだが、そもそも記憶自体、「忘れる」こともあるし、実験結果などから見ると、誤った記憶を全く持たない人はいないように思うのだが、それが甚だしい場合のことを述べていると思ってもらいたい。
 メールなどの客観証拠や、場合によれば録音があっても、偽造されたものであるということを言われる人もいる。
 こういう人にとっては自分の頭の中にあることだけが事実なので、それと異なる客観的資料を示しても受け入れようとしないのである。
 通常は客観的資料と付き合わせると、「あれ?記憶違いでしたかね?」となり、修正されていくことが多い。

 こうなると、依頼者であれ、相手方であれ、話合いによる解決は不可能であるし、訴訟で敗訴したとしても、裁判所が誤った判断をしたとしか考えないので、その人の中では納得するということはなく、困ったものである(裁判所がもちろん誤った判断をしないともいえないが)。
 
 弁護士の仕事柄、立証のことも考えないといけないので、ストーリーを裏付ける(相手方のストーリーの場合、それを突き崩す)客観的資料ができるだけないかをまず探すので、その客観的資料と記憶が異なる場合に、客観的資料が間違いであるということから始められると、それ以上先に進めないのである。

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