在りし日の小次郎
弁護士職務基本規程第30条では、「弁護士は、事件を受任するに当たり、弁護士報酬に関する事項を含む委任契約書を作成しなければなら
ない。ただし、委任契約書を作成することに困難な事由があるときは、その事由がやんだ後、これを作成する。」と定めている。
例外は2項で、前項の規定にかかわらず受任する事件が法律相談簡易な書面の作成又は顧問契約その他継続的な契約に基づくものであるときその他合理的な理由があるときは、委任契約書の作成は不要とされている。
私が弁護士になった頃は、委任契約書を作成している弁護士は稀であった。ただ、依頼者に対して「契約書を作成しなさい。書面に残さないとダメですよ。」と指導しておきながら、依頼を受けた事件について契約書を作成しないのはいかがなものかと考えて、私は弁護士2年目くらい(平成10年頃)から委任契約書を作成するようにした。弁護士職務基本規程は平成16年に成立しているから、時代を先取りしていた訳である。
職務基本規程に定められた例外を除いて、私の事務所では委任契約書を全件作成している。私の事務所では、それが当たり前であり、事務所の報酬基準も必要な箇所にマーカーを引いて、全ての依頼者に渡してある。
しかし、懲戒事例を見ていると、委任契約書を作成していない弁護士が今も多数いる。
そして、委任契約書を作成していない弁護士の傾向としては、処理がずさんで、費用も高額なものを請求したり、現実に取得している事例が多い。
依頼している弁護士が、委任契約書を作成していない場合には、それだけで継続して依頼を続けてよいかどうかを疑うに足りる合理的な理由があると考えるべきであろう。
依頼している弁護士について、「このまま依頼してよいのか、どうか」というセカンドオピニオン的相談を受けることも多いが、一部の事案では、委任契約書を作成することなく高額な費用を支払われているものもある。
依頼されている弁護士の処理に疑問があったり、費用について疑問がある場合には、他の弁護士に相談されることもまた一つの方法である。