在りし日の小次郎
ぱりんこなどの記事を書いてばかりではいけないと考え、真面目な法律の記事も書かねばと思いついた。
表記の事例は、私が代理人として勤務弁護士時代にほとんどの書面を書いた事件である。判例タイムズ976号240ページ。
弁護士2年目の事件であった。
雑誌の掲載の表題では、「京都市の風致地区における老人保健施設の建築に反対する近隣住民に対する建築妨害禁止の仮処分申立が認容された事例」とある。私は住民側で、債務者側であった。この表題だけみると、債務者、すなわち私が敗訴したかのようであるが、実際は勝訴しており、雑誌の表題だけ見ていては本質が見えないことがわかる。
興味のある方は原典に当たられればと思うが、風致地区の奥にある大きい土地に老人保健施設の建築計画が立てられたところ、近隣住民が道路部分を封鎖するなどしたため、工事車両が入れないとして、仮処分の申立がされた。
当該土地への大型の工事車両の進入路としては、私道しかなく、近隣住民が自宅の前部分を共有で持っている道路であった。建築基準法上の位置指定道路というものであった。
債権者側の「私道部分につき、工事車両を通行させるべき」という主張に対し、私の方は、「債権者には通行権はない。建築基準法上の道路については、公法上の規制の反射的利益として一般人に通行の自由が認められ、通行妨害行為を廃除できる場合があるが、その要件としては道路の通行が日常生活上必須の手段であること、右通行により私道所有者の利益ないしし自由が侵害されないことが必要である。債権者は、日常生活をしてきたものではなく、当該土地を取得して開発・建築行為を行おうとする者であり、このようなものにいて私道の通行が日常生活上必須の手段であると認められる余地はない」などと主張した。なお、当該土地に通じる道路としては、京都市の認定道路が別に存在した。
結局、裁判所は、私が書いたこの主張を認め、「工事は妨害してはいけない」としつつ、「工事のために近隣住民が所有している私道部分を工事車両が通行する権利はない」と判断したのである。結局、工事車両の通行は認められなかったのである。
このように、実質的には勝訴しているのだが、判例タイムズの見出しだけを見ると敗訴しているように見えるのである。
他にも読んでいると、「いや、この見出し間違いやん」という、そんな事件は多数あるので注意が必要である。