寒波到来
「死亡被害者の命の価値は駅頭で配られるポケットティッシュのごとくに軽い」
平成8年、私が弁護士になった時に京都地裁で交通事故の死亡案件で、求刑を超える量刑を言い渡した際の藤田清臣裁判官(当時)の量刑理由の中の言葉である。これは私は何ら関わっていた事件ではないが、当時は新聞などでかなり報道された。
藤田裁判官は前記の判決からも分かるように、信念を持たれた裁判官であったと思っている。
私は今は被害者支援の関係から、刑事事件は原則として引き受けないのだが、若い頃は国選刑事弁護も担当していたので藤田裁判官の担当部の事件もさせていただいたことが何回かある。
その中で思い出深い事件があった。
執行猶予が確実な事案であったが、通常は、判決言渡は2週間後である(ちなみに、内容自体は人を死傷させたような重篤な事案ではなかった。)。
この事件は、私のミスで弁論要旨を事務所に忘れてきたため、うろ覚えで汗をかきかき弁論を述べ終わり、被告人が最後に謝罪をしたところ、突然「今から判決を言い渡す」と言われてその場で執行猶予付判決をもらった。私は呆然。被告人も呆然。
「もう二度とこんなことしちゃダメだよ。かわいい奥さんとお子さんがいるんだから」(うろ覚えの記憶)とニヤリと笑いながら言われて(これもうろ覚えなのでひょっとしたら笑っておられなかったかもしれない)、さっと法服を翻して戻って行かれたことを記憶している。その姿がものすごくかっこよかった(月並みな表現ですいません。正直、しびれたのである。)。
情状証人で、奥さんがベビーカーを押して雨の中カッパを着て法廷に出てきていたのであった。
終了後、書記官に聞いたところ、「部長は執行猶予事案では、身柄拘束を無意味に長引かせないために即日結審して即日言渡されます」ということであった(もちろん、現在の刑事訴訟法の改正前である)。
様々な場面で、信念の人だと感動させていただいたことを覚えている。勝手に敬愛していた裁判官のお一人である。
藤田部長は、現在は大阪で弁護士をされているようである。
藤田先生、勝手に書いてすいません。
私も信念をもった法律家であるよう頑張ります。