在りし日の小次郎
「風土」P+Dbooks。福永武彦。
今年出会った大作家である福永の最初の長編小説である。
これについても、現在入手困難であったが、安価な値段で読むことができる。
15年前に淡い恋心を抱いていた女性は友人の妻となったが、その後、パリで友人は交通事故で死に、海辺でその女性は子どもと暮らしている。
15年振りに海辺に訪れた芸術家は、何を思い海辺を訪れたのか。
15年前の状況と現在とが交錯して深い物語をつむいでいく。
こういう小説を読むと、最近の小説はやはり読むことができないのである。
芸術家と女性の恋という意味では、名作「海士」と同様の舞台設定であるが、処女長編ということで、海士の方が物語の技巧や構成は巧みであるが、風土もまた素晴らしい作品である。
人生で一読の価値のある作品であると思う。
解説は実子で作家の池澤夏樹氏。