読書日記10月24日

中隆志

中隆志

「あなたの知らない脳 意識は傍観者である」早川書房。ディビット・イーグルマン。
 我々は「自分の意識」というものを感じているが、それが本当か?という観点から様々な科学的根拠を示して意識というものが傍観者であるに過ぎないことを論証していく科学ノンフィクション。
 これはめっぽう面白い本であり、一読の価値はある。

 脳は無意識・自動的に行動できるように我々の身体を司っている。たとえば、自宅に入ってくつろいだ時、自宅に入る一連の行動が無意識のうちに行われていることがわかる。
 また、自動車の運転も慣れてきた場合に、車線変更した時にどのようにハンドルを動かしているか意識していることはない。

 ヒヨコの雄雌判定は、日本にその訓練施設があり、全世界から訓練するために判定士が訪れるが、日本の熟達した判定士は、言葉でどうやって判定しているかを説明することができず、とにかくやってみて、無意識の中にすり込むしか訓練の方法がないことも説明されている。

 また、脳に腫瘍ができたために人格変化を起こして無差別殺人事件を起こした男や、脳に腫瘍ができて突然幼児性愛者になったしまった男の話などから、我々が「意識」と考えているものが砂上の楼閣ではないかという気にさせられる。
 筆者は、脳の働きからすると、刑罰というものは個別性を強くすべきだとし、更生プログラムも個別性を持たせるべきであるとするが、その視点が刑事事件を起こした者だけに向いているという点が私などからすれば不満であり、被害者のことが置き去りにされている。
 私は刑罰には報復的観点を抜きにはできないと考えているので、加害者中心の考え方には異論がある。
 その点についての不満を除外すれば、非常に面白い読み物であった。

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