連絡手段

中隆志

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 先日読んだ福永武彦の「草の花」という小説の中で、最愛の女性と会わなくなり久しい主人公が、出征の前に一度音楽を見に行こうとして、コンサートのチケットを同封した手紙を送るという場面があった。その女性が来たか来なかったかはさておき、離れている人同士の連絡方法としては手紙くらいだったのである。
 現在放映中の「真田丸」でも双方の状況を手紙で伝えている。

 私が大学生になり、授業にもあまり行かずアルバイトをしていた頃、アルバイト先(業務用の冷蔵庫・冷凍庫やクーラーの据え付けの仕事)のおじさんの連絡方法はポケベルであった。
 「ポケベルが鳴らなくて」という名曲があるが、今の人には「???」であろう。
 ポケットベルが鳴ると、会社に連絡をして用事を聞くのである。

 少しすると、車に電話がついた。携帯電話の走りである(一番最初の携帯電話はランドセルくらいあったようだが、このオジサンの場合は今の携帯よりも少し大きい電話が自動車についていた。ただし、自動車から外して持ち運びはできない)。

 弁護士になって2年目くらいに携帯をもつようになったが、この頃は携帯をもっている人も稀であった。
 しかし、そのうちに誰しもが携帯を持つようになり、今はスマホ全盛期である。

 冒頭に書いた小説の一コマは、今ではLINEで送られてしまい、風情も何もないのであるし、展開もその場で決まるということになる。
 その意味では、現代小説では、こうした男女の連絡がつかずもどかしいというような話は書きづらいと思われ、連絡手段の発達もよいことばかりかどうかは分からないと思うのである。

 以上。
 

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