読書日記4月26日

中隆志

中隆志

「ラオスにいったい何があるというんですか?」文芸春秋。村上春樹。
 村上春樹の紀行文集。ラオスというのは私にもなじみがない国であり、この旅行記で初めてイメージが沸いた。
 そのほか、ノルウェイの森などを執筆した当時住んでいた国への旅行記など、いくつか掲載されている。
 村上春樹の作品は難しいが、紀行文などは読みやすい。
 ただ、村上春樹ファンでないと読む必要はない一冊か。私は村上春樹ファンではなく、現代でいわば一人勝ちの作家として、読む必要があると思って読んでいるのだが(もちろん、好きな作品はあるけど、全部ではない)。

「反知性主義とファシズム」金曜日。佐藤優と斎藤還。
 これは面白かった一冊で、AKB、色彩を持たない多崎つくる、宮﨑駿の「風立ちぬ」について物凄い知性の二人が対談するというものである。
 よくこれだけの知識が頭の中に入っているものだと思われる。
 逆に、ここまで物事を考えたり、読み込みをして作品を読んでいると疲れないかなと思うほどである。
 村上春樹の作品について語られると、「ははあ、なるほど」と思わせられるところがあり、読み方が浅かったと思ったりもするのだが、逆にいうと、作家の作品などというものは、それぞれの人の読み方があってよいではないかという気にもさせられた。批評というものは本来そういうものなのであろうけど。
 風立ちぬという宮﨑作品は世間的には非常に評価されていたと思うが(私はジブリ作品は嫌いなので一切見ない。理屈というより生理的に嫌いなので仕方ない。)、佐藤優は無着くちゃにこき下ろしている。宮﨑作品の根底に流れるテーマとか、宮﨑駿のアイデンティティのようなものについて深く語られていて、見たことがない私でも、「ほほう、そうなのか」と思わせられる。
 現代の日本が反知性主義によって動かせられていることについても随所に怒りというか、情けなさのようなものがあらわれている。
 面白い一冊だが、引用されているものについては知らない人が多数であろう。私も大半は知らなかった。私も知性が足りないのかもしれない。

「「豊臣大名」真田一族」洋泉社。黒田基樹。
 真田丸の時代考証担当の筆者による、戦国統一後の真田一族を描いた作品である。
 真田一族が豊臣政権でどういう立場であり、どういう動きをしていたのかについて書かれており、関ヶ原の戦いでなぜ真田昌幸と信繁(いわゆる幸村)の二人と、信幸(後信之)が敵と味方に分かれたかについて考証されている。
 史料にあらわれてこない事情がそこにはあったと私は考えているが、筆者は史料に基づいて、元々親子ではあったが昌幸は信州の上田を治めている大名であり(この本の中では小名)、信幸は沼田を治める大名であったことから、元々大名として別であり、また、信繁の正妻が大谷善継の娘であり、信幸の娘が本多忠勝の娘であったことからであるとしている。
 後世の我々からすれば、関ヶ原の戦いで家康が勝つというのは規定路線であるが、西軍についた大名も相当いたことや、家康自身戦が始まる前は殺気だって太刀を抜いて使い番を追い回していたこと(なお、隆慶一郎の作品、影武者徳川家康では、このときに家康が殺されたとする。そうでもないと戦の前に使い番を斬ろうとなどしないというのである。津本陽氏の「乾坤の夢」では、ここはさらりと書かれており、史料に基づいている)、岐阜城を福島正則が攻めるまで江戸を動こうとしていないことから、家康自身も万全の自信があった訳ではないことからして、やはり真田家が立ち行くように双方についたというのが本当のところではなかったかと思っている。

 史料にはないが、私は、徳川秀忠が率いる徳川家の最強軍団がわざわざ4万近い兵を率いて上田城を取り囲んで時間を無為に過ごしたように見えるのも、関ヶ原で家康が万が一負けた時に戦力を温存するためではなかったかと疑っているがどうであろう。
 そうでなければ、わずか動員戦力3000程度の真田昌幸の上田城を囲む必要などないように思われるからである。
 その後、家康は当初の方針を改めて秀忠を関ヶ原に向かうようにさせるのだが、もしこれが家康の戦略でなければ天下分け目の戦いに遅参した秀忠は廃嫡されるのではなかろうかと思ったりしている。
 ただ、結論としては小早川秀秋らの裏切りがなければ危ないところもあった戦いであったのであり、真田昌幸がいなければ秀忠の軍勢も関ヶ原の戦い当日に到着しており、易々と勝てたということで、家康の心の中に、「真田昌幸許すまじ」という思いが沸いたとしても仕方がないように思われる。
 昌幸は赦免を求めていたが、九度山で許されることなく死んだ。
 昌幸と信繁が赦免されていれば、大阪の陣での戦いはなく、家康も人生最後の野戦で旗を倒されることもなかったと思うと、歴史とはわからないものだと思わせられる。
 長々と書いたが、歴史好きは是非読めばいいと思うが、一般受けはしない一冊である。

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