弾劾証拠

中隆志

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 裁判で証人尋問をしていると、後に提出する予定の証拠を示すということで、弾劾証拠を出しまくる代理人がたまにいる。
 証人の証言の信用性を減殺するためにあらかじめ提出する予定でここぞとばかり準備して、これが1番大事な証拠だというような顔で示されることが多いように思われる。

 しかし、私は20年間の弁護士人生で、弾劾証拠をここぞとばかり出した弁護士の尋問が成功していると思ったケースは一件もない。
 こうした弁護士が「これが決め手だ」と思っている証拠は、相手の代理人である私から見ると、「この証拠のどこがそんなに大事なの?」と思わせるようなものである。
 証拠というのも見方によって様々な評価ができることがあり、そうした代理人に共通しているのは、証拠に対する思い込みがあり、その証拠さえ出せば勝てると思っているように見えるところである。

 私の経験からすると、これさえ出せば勝利できるというような証拠はあまりなく(貸金訴訟で支払った領収書などがあればそれは勝利できるであろうが、そんな証拠があれば普通は最初から出すはずである)、勝てると思い込んだ時点でそうした弁護士は事件を複合的、横断的に検討するという思考が停止してしまっているのではないかと思われる。

 それほど重要な証拠であれば堂々と最初から出せばよいのであるし、証拠の信用性や証明力が強ければ、それに対して相手がいろいろと言っても弁解にしか聞こえないであろう。

 ある場面の録音反訳を出してきて、このときのやりとりはこうだったでしょという弁護士もたまにいるが、その会話を録音している時点で相手方の方は一定の方向に誘導しようとしているだろうから会話にバイアスがかかっているだろうし、会話というのはその一部分だけ切り取っても意味をなさないことがあるから、それほど嬉々として提出するほどの証拠なのかと思わせられることが多いように思われる。

 また、なんとなく弾劾証拠を多用する代理人は、訴訟を騙し合いの場のように思っているように思われてならず、裁判所としてもあまりいいイメージは持たないのではないかと勝手に思っている。

 以上。

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