猿と自慰行為

中隆志

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 猿(であったかチンパンジーであったか)に自慰行為を教えると、衰弱死するまでしているというような話をどこかで読んだことがある。真偽のほどは定かではない。

結局のところ、猿というものは、快楽に負けてしまい、何もかも(生存することすらも)捨ててしまうということなのであろう。

 人間でも、やりたいことだけをやって生きていくという訳にはいかない。
 やりたいことをやっていれば、前述の猿のように生きていくことすらも出来なくなるであろう。

 海音寺潮五郎は、執筆中も読みたい本をちらちらと見ていて、奥さんがお茶を運んでいくと慌てて隠したというが、海音寺はある意味本を読むのが仕事の一部でもあったから、これなどはまた違う話であろう。

 私なども通勤電車で続きが気になる小説を読みたい欲求はあるが、仕事を放り出して好きなことをしていれば前述の猿に等しいと思うし、ありがたいことに私は弁護士という仕事が好きなので、仕事中は他のことをしようとは思わない。

仕事がそこまで好きでなくとも、生きていくためには自分の好きなことばかりするわけにもいかず、そういうことをしていれば待っているのは前述の猿と同様破滅であろう。

 人間が猿と違うのはそこのところであり、仕事で働くからこそ余暇が楽しいということなのではないかと思ったりする。
 お金が有り余って働かなくてもよい人は、その実、人生が充実しているかといえばそうでもないのではなかろうか。

 仕事に追いまくられてはいるものの、だからこそ余暇の楽しみがあると思うのである。

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