ある分野に詳しいとされる弁護士

中隆志

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 こうした弁護士がまま陥りがちなのが、自分が得意、詳しいと考えている事件の筋に事件を引っ張っていってしまうことである。
 事実というものがあり、その事実を前提にして規範を立てて、そしてあてはめをして結論を出すという判断過程を経る必要があるのだが、先に規範を立てて、これに合うように事実を曲げるか、都合の悪いところはカットしてしまうことがある。
 依頼者の話を聞いて、自分の得意分野の型枠にはめてしまい、「この事件はこうなんです」「あなたはこれこれという状態にある」というように当てはめをしてしまうことがある。

 司法試験の受験の際に、自分の都合のよいように事実を曲げて規範にあてはめるということは最もしてはいけないことだ、そういう答案は落第すると言われていたが、人間というものは、自分の得意分野で勝負をしたくなる傾向にあるものなのであろうか。

 人間の行動にレッテルを貼って、あるカテゴリーに分類するということはよくされているが、その場合に、そのレッテルやカテゴリーに分類するについて、外れた行動を取っている場合には、そうした行動はレッテルを貼ることによって、全て割愛されてしまいがちなのではないか、という思いを抱くことがある。
 池波正太郎の小説を読んでいると、「人間というものはわからないものだ」という主題が貫かれていて、池波正太郎が人間についていえることは、「生まれて、最後に死が待っている」ということだけだとよく書かれているが、人間をよく知る池波正太郎ですら「わからない」と繰り返し述べていたのであり、レッテルを貼ってカテゴライズばかりすることに対しては何か違和感を感じてしまうところがある。

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