在りし日の小次郎
裁判所の喫煙室で葉巻をふかしていると、刑事事件の傍聴マニアのような人達が事件について意見交換をしていることがある。
彼らは平日の昼間に何をしている人であろうかと思いながら葉巻をふかしている。
冬場はコートを着ているので弁護士バッジが隠されているため声をかけられないが、コートを着なくなるシーズンになると、時々、こちらが弁護士ということが分かり、声をかけられることがある。しかし、声をかけられたところで、今やっていた事件について中身を知らなければ答えようもないし、自分が弁護人の事件ではよけいに何もいえない。
民事事件でも声をかけられることがあり、尋問が終わってから、「先生、さっきの証人はウソつきでしたな。」などと言われたこともある。こちらの証人でなくてよかったのだが。
彼らは彼らでたくさん事件を傍聴しているので、「あの検察官はヘタだ」とか、「さっきの事件の弁護人はイマイチだった」とか民事事件に対しても批評を繰り返している。
量刑に対して意見を戦わしている時もある。
下手に経験のない若手弁護士よりも量刑相場に詳しいかもわからない。
事実は小説より奇なりとはよくいったもので、生の事件では予想もつかないような事実が出てきたりする。一度興味を持つとやみつきになる人が出るのもある意味当然なのかもしれない。
確か裁判の傍聴記を書いた本がそれなりに売れたと記憶しているが、私などはそれを生業としているので、傍聴にいく暇もなければ、暇があったとしても他の事件を見に行こうという気にはなれないが、裁判が昔よりも一般の人に身近になったということなのであろうか。
彼らに「中という弁護士はダメだったな」と言われていないかちょっと心配である。