チャンドラー

中隆志

中隆志

 私がチャンドラーのファンであることは何回かこのブログでも書き、他でも書き、常日頃話をしているところである。
 先日も弁護士会の会内中心に配布されている会務ニュースに記事を書き、その中で、村上春樹訳の「ロング・グッドバイ」が秀逸であったことを書いたところ、ある先輩弁護士と弁護士会で会った時に、「中さんが書いてたあの本、購入して今読み始めたけど、おもしろいわ。」と言っていただけた。
 本を紹介して、それをきっかけに読んでもらえるのはうれしいことである。

 チャンドラーの長編としては、「大いなる眠り」「高い窓」「かわいい女」「さらば愛しき女よ」「長いお別れ」「湖中の女」「プレイバック」が、清水俊二訳でハヤカワ文庫から出ている。
 「フィリップ・マーロウの事件」という短編集が後から出て、これはマーロウ最後の事件が収録されている。
 未完の作となった「プードル・スプリングス物語」は、チャンドラーの大ファンであったロバート・B・パーカーが完成させてハヤカワ文庫から出ている。これは長編である。
 マーロウはここで人生初めての結婚をする。相手はリンダ・ローリングで、ロング・グッドバイで登場した女性である。
 大富豪の娘であるので、マーロウは働かなくてもよいのであるが、町外れで事務所を構えて、いつものマーロウの活躍が始まる。
 一方、村上春樹訳は、「ロング・グッドバイ」「さよなら、愛しい人」「リトル・シスター」「大いなる眠り」の4作が出ている。いずれも長編。大いなる眠りはまだ文庫化されていない。
 記憶で書いているので、漏れがあったらご容赦を。

 短編集はたくさん出ているので、ここで網羅しきれないところもあるが、最近、新訳で短編集が再度ハヤカワ文庫から刊行されている。ただし、短編集では、マーロウが主人公でないものも多いので(マーロウとほぼ同じジョン・ダルマスという探偵なんかが出てくる)、マーロウが読みたいなら、買う前に要注意。

 マーロウとの出会いは、たまたま大学生時代に購入した「ハードボイルド風に生きてみないか」という本だった。これはハードボイルド作家生島二郎が書いたハードボイルド小説の紹介兼ハードボイルドとはどういう小説か、またそのエッセンスは何か等々を書いた中々いい本なのだが、今はたぶん絶版である。
 その中で、マーロウの名台詞である「タフでなければ生きていけない。優しくなければ、生きていく資格がない」(訳本によって、いろいろな訳がされていますが。。。)などが紹介されていて、「一度読んでみよう」と思ったのがきっかけであった。ちなみに、この台詞はプレイバックに収録されたラストシーン近くの名台詞。

 それから、学生時代から、修習生時代、弁護士になってから読み始めて、その魅力にとりつかれて、短編集もすべて買い、新訳の短編集が出たらすべて買い、村上春樹の新訳が出たら全部買い、というようになっている。
 チャンドラーを読み始めて、すでに20年近くになるが、その魅力は色あせるどころか、日々強くなっていくようである。

 本屋に行くと、最近はチャンドラーの本があまり置いておらず(私は持っているので買わないのだが、他の人にも買って欲しいので)、残念な思いをすることがある。
 その一方で、チャンドラーの本を揃えてある本屋に行くと、「いい仕事しているな」と本屋をほめてあげたくなる。
 ミステリー作家の中では、日本では横溝正史、海外ではチャンドラーが私の中では他の作家と隔絶して好きである。
 続く。

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