読書日記「百年の孤独」
S井の竿にかかったのは巨大なボラであった。ボラははっきりいって食べても全く美味しくない。しかし、何も釣れていなかった我々としては嬉しい。
必至に竿を操作するS井。ボラも疲れてきた。
しかし、現場は高い防波堤であった。引き上げると糸が切れるかもしれない。
私は周りを見た。大物が来た時に備えて、長いタモアミを持っているオジサンがたくさんいる。ちらちらとこちらを見ているが、「貸してあげようか」とは言ってくれない。
私は釣り人の心理をしっている。他の釣り人に釣れるのははっきり言うと物凄く嫌なのである。
それに、見ていたが、周囲のオジサンたちも釣れている様子もない。
平日に、ベテランのような格好で釣りに来ているオジサンたちとすれば、ジーパンに適当な格好で釣りに来ている大学生に横で大物を釣られるのは腹が立つであろう。
私は、「貸してください」というのを諦めた。いたいけな大学生であった私はとても図々しくいえなかったのであった。
S井に、「周りのオジサンたちに借りるのはプライド的に無理そうやから、一気に引き上げるしかないわ。」と耳打ち。天才的頭脳を誇るS井は、私の一言で状況を把握したようで、うなずくと引きあげにかかった。
しかし、やはり巨大ボラの体重は重く、糸は切れ、ボラは海の彼方へと泳ぎ去ったのであった。
周りで見ていたオジサンたちに何となくほっとした空気が漂う。
結局、この日、私が釣ったのは、S井の指だけであり、S井は魚の引きを楽しめただけ私よりよかったが、ボウズで神戸の海を後にしたのであった。