検察審査会の強制起訴

中隆志

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 最近は検察審査会の起訴相当の議決を受けて、起訴される事件が増えている。
 犯罪被害者支援に携わってきた私にとっては感慨深い報道である。

 私が犯罪被害者支援に携わるようになったのは前にも書いたかもしれないが、ある一つの事件がきっかけであった。弁護士になって2~3年目の頃で、当時は犯罪被害者支援に関する法整備は全くと言っていいほどなかった。
 滋賀県のある都市の早朝の路上で、親子二人が刺殺されるという事件が起こった。しかし、捜査の結果、犯人は犯行当時心神喪失の状態にあったとして不起訴にされた。
 この事件を私は被害者側として相談を受け、初めて検察審査会への申立を行った。当時、審査会へ申し立てたことのある弁護士の方が少なかったであろう。
 その頃は法も整備されていなかったことから、不起訴の記録は全く見ることが出来ない。検察官が遺族への説明のためにくれた、不起訴裁定書(検察官が不起訴にするために書く書類)の抜粋のようなものしか手元にはなかった。
 刑事事件における責任能力の何たるかということと、そのわずかばかりの情報の中から組み立てて、申立書を作成した。

 そうしたところ、検察審査会では、被害者のそれぞれに対して、各、「起訴相当、不起訴不当」の議決がなされた。
 当時珍しかったせいか、取材も多数受けた。これを受けて検察庁に再捜査を求める上申書を遺族とともに提出し、再捜査の結果、一部責任能力ありという鑑定が出て、一転して起訴された。
 まだ、犯罪被害者支援に関する法律が整備される以前の話である。
 ちょうど、昨日、少し事務所の終了記録を整理していて、起訴された後の刑事記録が出てきたが、これは思い出に残る感慨深い事件であるから捨てられなかった。
 遺族の思いは今も続いているであろう。代理人であった私も、同じように記録が捨てられずにいる。

 その後、多数の犯罪被害者支援に関する法律改正がされ、検察審査会についても、強制起訴される場合が定められた。
 今手元に新聞がないのだが、今回は2回目の起訴相当の議決を受けたものであったかと思う。
 私は今後も犯罪被害者支援に携わっていくであろうし、犯罪被害者保護の流れというのは止めるべきでもないし、止まらないであろう。
 遺族の思いも消えることはないだろう。

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