過払い今昔

中隆志

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 私が弁護士になった平成8年頃は、あまり債務整理をする弁護士がいなかった。
 理由の一つは、今のように表計算ソフトがなかったので、利息計算をするのが非常に複雑であったことに加えて、業者と依頼者がどのような取引をしてきたかという取引履歴の取り寄せが中々難しかったからである。業者の担当者と30分以上電話で怒鳴り合うということもしばしばだった。
 また、合意するのも中々手間であった。

 私が見ているところでは、現在過払いで売上をあげている弁護士や司法書士は、その頃からやっていた人ではない人が多そうである。
 数々の最高裁判決を消費者被害をやっている弁護士がしてきたり、あるいは交渉で結果を勝ち取ってきた後に出てきた感が否めない。

 今の若手弁護士は、多重債務相談に行けばそれなりに事件があり、マニュアルどおりにやっていればそれなりに収入が入るのであるが、昔の苦労は知らないであろう。

 利息計算については、手でしていた人が多かったし、京都では、「めんどくさいし、相手の言っている金額を認めて1万円ずつ払ったらすぐやで」ということをいうベテラン弁護士も居た。しかし、私はそれには納得がいかなかったので、自分で表計算ソフトを作り(今から思うとよくあんなことが出来たのだが)、弁護士会で配布した。後に修正され、今では市販されている書籍についているので、もはや私のソフトよりも使用しやすいものが出ているのだが。

 当時は割と重宝された。

 次に取引履歴の取り寄せについても、大手消費者金融でも、担当者と30分くらいは怒鳴り合いであった。これはだいたい皆そうであったようだ。少しずつ取引履歴の開示を求める弁護士が増えるに連れ、消費者金融の方もトーンダウンしていき、かつ、判例が出たりして、大人しくなっていった。しかし、そうなるまでは10社有れば300分怒鳴り合いをしなければならないので、相当体力精神力が削られるのであった。

 和解についても中々出来ず、昔は過払いはあまりなかったから(過払いが出るほど長期の人が少なかった)、返済する方が多かった。
 そうすると、将来利息をつけろとか、一括でないとだめだとか、様々な嫌がらせをいわれるのである。
 東京3会基準というのがあり、最終支払日の元本を、無利息で分割とするというのが原則とされていて、京都でも私が音頭をとってこれを導入した。
 以後はそれがスタンダードとなって、割合容易に和解が出来ていた。

 少し前には、過払いだけやって、債務整理は地元の先生にという東京の事務所があるやに聞いた。そのため、日弁連が、その後、「過払いだけをするのではなく、全ての借金の整理をするように」というガイドラインを出した。当たり前のことであるが、かようなガイドラインを出されても恥と思わないようでは、「士」ではあるまいと思うのだが、ビジネスライクな弁護士も増えたようである。

 この稿に取り立てて結論のようなものはないのだが、強いていえば、弁護士は昔の侍、武士と同じで、「恥アル者」でなければならないのではないかと思うのだが、どうであろう。

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