下手な歌詠み、土方歳三

中隆志

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 あまり語られることがないが、土方歳三という男は下手な歌詠みであった。
 土方歳三は、いうまでもないかも知れないが、新選組の副長として、実質的に新選組を作り上げて、指揮していた男であり、司馬遼太郎によると、幕末に尊皇攘夷の志士が京都の町を風を切って偉そうに歩いていても、新選組が来るのが見えた途端に皆路地に蜘蛛の子を散らすように逃げたというのであるが、その中でも土方歳三が最も恐れられたという。

 土方歳三は、平気で残酷な拷問もしたし、隊を守るために粛正も行ったが、そうした一面とは異なり、下手な歌を詠んでいる。その下手さは歌に関しては素人である私ですら読んで笑いそうになるほどであるが、土方歳三がなぜそんな歌を詠んでいたのかということについてはよくわかっていないようである。

 歳三は武士に憧れていたというから(近藤勇も、土方歳三も武士階級の出身ではなかった)、伊達政宗や、太田道灌のような歌心のある戦国武将的な武士に憧れていたのではないかという気にもなるが、私の知る限りでは歳三がなぜ歌を詠ったかというその心情を本人が吐露したということも聞いていないし、そのあたりは、歳三を主人公とする小説でも書いたものに(私が偶々本の読書数が足りないせいかもしれないが)出会っていない。

 歳三という人物を描くのに、この下手な歌を詠んでいる彼の心情についても描ければよいのであろうと思うが、小説にはストーリーが要求されるので、中々難しいのかもしれない。
 伊達政宗の歌は武将ばなれしているし、上杉謙信も漢詩を詠んでいる。歳三は、かたちだけ歌を詠むことによって、武将に近づこうとしたのか、あるいは詠みたいという衝動に突き動かされていたのか。
 髷を切った後の写真を時々見るのだが、京都の女子達から熱い視線を送られていたというのがよく分かる。切れ長の目に整った顔立ち。ちょっとすごいほどの二枚目である。
 まさか口説きの手段だった訳ではないであろうが、そこのあたりが私には不思議である。

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