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コラム
呉記
2012年2月13日
韓非子(かんびし)は人間の本性を悪であると説いたことで有名な中国古代の思想家であるが、その著作の中には様々な逸話が掲載されている。
孫子とともに有名な兵法家である呉起という将軍がいた。呉起が魏の国の大将となり敵国を攻めた時、兵卒の中に腫れ物が出来て苦しんでいる者がいた。呉起は、単なる一兵卒のために、自らその膿を口で吸い出してやった。
この話を人は美談であるとして、兵の母親に告げたところ、その母親は嘆き悲しんだ。
周囲の人は、「将軍自ら膿を吸い出してくれるなどということはあり得ない話であり、なぜにそのように嘆き悲しむのか」と訝しんだ。
母親はいう。「あの子の父親も腫れ物を患い、将軍様に膿を吸い出してもらった。それことに感激した夫は、将軍のために奮戦し死んでしまった。きっとあの子も将軍様の行為に感激して、奮戦して死んでしまうでしょう」と。
母親の予言通り、兵卒は戦いが始まると奮戦して帰らぬ人となった。
人生万事塞翁が馬と同じ意味合いにも取れる逸話であるし(一つの出来事に対して一喜一憂することの愚かしさ)、呉起という将軍の人心掌握の巧みさを感じ取る逸話であるともいえるし、呉起という将軍は、心根が極めて冷たく、後々のことを考えて兵卒に優しく接していたが、それは真実の呉起の姿ではなかったということを示す逸話であるということも出来ようか。
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