情状弁護の難しさ

中隆志

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 刑事事件で、殺人の故意を否認するとか、犯人でないことを争う事件であったり、責任能力を争う事件であったりという事件がクローズアップされるが、たいていの事件は事実関係にはさほど争いがなく、被告人に有利な情状をあげて減刑又は執行猶予を求めていくということになる。

 中には、全くよい情状を見いだせない被告人もいるのであるが、だからといって、被告人の為には全世界を敵に回しても弁護をしてやらないといけないという弁護人の職責から、何かを探し出さないといけない。

 被告人側の有利な情状をあまりに強調して、被害者のことを忘れていると、やらない方がよかったという弁護になることすらある。私は犯罪被害者の事件も、刑事事件もするので、常に被害者のことを念頭におきつつ、被害者の被害感情をいかに逆撫でしないで有利な情状を出すかということに注意を払う。
 被告人側だけの事情をあまりに強調すると、「被害者を忘れていませんか」となるのである。
検察官から厳しい質問をされることもあるが、それは公益の代表者であり、被害者からも事件について直接いろいろと言われる立場であるので、検察官の職責として当たり前というところもある。
 たまに、検察官が厳しいと言って怒っている弁護士もいるが、逆に弁護人から、「あの検察官は優しくてよかった」と言われているようでは、被害者からすると、「あの検察官は生ぬるい」と言われるので、それぞれの立場を理解することも必要であろう。
 
 最後に被告人のよい情状をあげて減刑や執行猶予を求める弁論要旨でも、被害者が傍聴していたり、意見陳述をされる場合には、その場の雰囲気で言い方を変えたり、弁論しようと考えていたことを削除することもある。あらかじめ弁論要旨は作っているのであるが、杓子定規に作ってきたものを読むのではいけない。

 実刑確実と周囲からいわれた事件を執行猶予にしたり、起訴されれば実刑確実な事件を被害者と示談して、罰金にしてもらう等の行動が大事であり、私はそういう時には検察官に面談したり、電話で見解を聞いたりしている。
 求刑するのは検察官なのであるから、争うべき事案は争い、被告人側がただひたすら有利な情状を探す事件では、検察官から情報を聞いて被害感情を和らげる等の様々な活動が必要であるが、刑事事件を一生懸命にするあまり、その点が被告人側に偏り過ぎては、結果的には被告人に不利益な弁護活動をしてしまったということにもなりかねない。

 いろいろと考えはあり得るところではあるが、私はこの考え方で割合いい結果を取ってきているので、これが正しいと思っているのである。

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