給料をもらっていた頃

中隆志

中隆志

 まるで日経の私の履歴書のようであるが(そのうち私の幼少の頃から書いてみようかな。誰も読まないか)、司法修習生にも給与が出るが(そのうち貸与制などなって出なくなるようだが)、弁護士になって初任給を貰ったときは身が引き締まった。
 当時25歳であったので、大学を卒業して働きだした周囲の同級生と比較すれば破格の給与であった。
 給与の3倍は働いて当たり前で、それ以下だと事務所にとっては単なるお荷物となるということを修習時代に酒の席で諸先輩方に言われていたので、弁護士になった一月目から、まずは自分の働き分が給与分を割り込むようなことだけは絶対にしないように事務所の事件を常に何件やっていて、どれだけ事務所に貢献しているかということを意識していた。
 そのうち、給与の三倍どころかもの凄い売上を上げるようになったが、商売という意味ではないが、自分が事務所にどれだけ利益を与えているかということを考えていた。
 それがプロであり、責任であると考えていたからである。
 その空いた時間に国選などをしていたが、事務所の事件が多忙になり、そのうち国選も出来なくなった。法律相談なども絞り、あまり手を広げないようにもしていた。事務所の事件に穴を空けては元も子もないからである。
 こうした考えで仕事をしていると、顔つきも変わってくる。
 昔はカムトゥセプテンバーといって9月になって半年も経てば一人前の顔になると言われていた(言っていたのは私の第1師匠だけだという話もあるが…)。
 最近、若手弁護士の顔を見ても、1年経っても2年経っても一人前の顔をしていない人が多いような気がする(私がオッサンになっただけかもしれないが…)。いつまで経ってもおこちゃまのような顔つきなのである。顔が老けているとか若く見えるとかそういう意味ではない。
 そうした若手を見ていると、事件やお金に対する見方も甘く、世が戦国時代であれば今頃とっくに討ち取られて命はないであろう。
 こういうことをすればどうなるかという先読みの能力というか想像力が足りない若手も多いし、闇の部分が少ないように思う。

 世間ではもの凄い残業をしてボロボロになっても給与が20万円程度ということもざらにあることから考えると、弁護士の業界は恵まれているといえようが、逆にいえば専門家というか能力があるということを前提で高額な給与設定がされているともいえるので、これからは能力がない弁護士は給与が激減されるという時代がやってくるかもしれないし、事務所から放逐されるということも多くなるだろう。弁護士になりさえすればどうにかなるという時代はとうの昔に終わっているようである。

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