不動産の任意売却

中隆志

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不動産の時価が右肩上がりであった頃は、不動産を売却すれば、住宅ローンも消えて、そのほかの借財も返せて…ということがあったらしい。らしいというのは、私が弁護士になった平成8年には既にそのような事態は終息しており、ここから不動産価格が下落の一途をたどったからである。

 そのようなことで、最近不動産を任意で売却しようとすると、担保についているローンの残額より不動産の時価相当額が低く、担保権者と抵当権や根抵当権の抹消について交渉・協議して同意を取る必要が出てくるのである。たとえば借りているローンが1億で1億の担保がつけられていて、不動産が5000万円で売れるとすると、貸し付けている先は5000万円の損失を受けるので(通常不動産を売却したあと負債がかなりあれば破産をするだろうし、破産事件の中で売却することも多いため)、担保をつけている先と協議しなければならない。

 実際には売却価格から不動産会社の仲介手数料、破産者の引越費用(これがでないと破産者の方も売却する意欲が起こらない)、滞納税金で差押されていたとすればその解除のための費用などをみないといけないので、担保をつけている先に入るお金は売却価格より少なくなる。
 任意売却をする場合、売却価格からこのように支払える、このような経費がかかるという一覧表を作り、協議をしていくことになる。担保権者が3人いたりすると、後ろに担保をつけている人には多くの場合、抹消費用ということで、印鑑代を渡して同意してもらう。

 今も売却予定があるのだが、こうした調整はけっこう手間であり、細やかな作業となる。
 私の場合、登記に関しては、いつも依頼するH司法書士に任せておけばよいのだが、それ以外の調整がたいへんなのである。

 少し前だが、破産管財人をしていて、9000万円くらいで売れそうな物件があり、私が調整したのだが、2番目に抵当をつけているところが「1億円は越えるはず」とがんばり、結局任意売却が出来なかったことがあった。ところが、後に5500万円で売却に同意してきて、私は既に管財人として財産からこの不動産は「売れない」として放棄しているため、後から売却のためだけの代理人に就任したことがあった。これなどは無能な担当者が頑張りすぎたがために、回収額が金融機関にとって数千万円変わってしまったという例である。

 競売ともなれば、当然引越費用などは出ないので、引越費用が出るような場合には、任意で売却をすることは一つの選択肢であるといえよう。

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