複数の書籍で調べ物を

中隆志

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調べものをするときだが、必ず複数の本で同じところを調べないといけない。本は間違っていることもあるからである。本を書いているからといって、物凄い知識があるとは限らず、ヘタをすれば一般よりも劣っていることだってあるし、本ばかり書いて、実務家としては能力ゼロということもあるからである。

 こんなことがあった。

 私が勤務弁護士をしていた頃、ある不動産を仮差押した時のことである。
 仮差押というのは、裁判を出してせっかく勝訴判決を取っても、その間に財産を他の人に売却したりしてしまわれたら、せっかく勝訴しても無駄になるので、相手の財産を「仮に」押さえておくという手続である。相手の言い分を聞かずに一方的に仮差押をしてしまうので、相手に損害が出る場合がある。これに備えて、担保金を積まなければならないのである。

 ところが、裁判所が決定したその担保金の額が以上に高いのである。1000万円の損害賠償請求に対して、目的の不動産の価値が5000万円もあるからという理由で、担保金を1000万円とされてしまったのである。私は書記官に電話して、「面談させてくれ」といったが、「裁判官は、これでしか決定は出さないと言っています」というので、担保金の決定額に対して、不服申立(法律的には即時抗告というのだが)が出来るかどうかを調べなければならないはめとなった。

 私としては、担保の額も裁判官が決めるので、そこに決定行為がある以上、当然に不服申立が出来ると考えていたのであるが、勤務事務所にあった本で調べたところ、「担保の額の決定に対しては、独立に不服申立は出来ない」と書いてある本がある一方で、そんな問題には何ら触れられていない本があるだけであった。

 そこで私は自腹で本を何冊か本屋に買い込みにいくと、ある本には、「当然に出来る」と書いてあった。私は自分の感覚とこの本を信じて不服申立をした。

 そうしたところ、大阪高裁でこの不服申立が通り、1000万円の担保金が400万円に減額されたのであった。

 ちなみに、元々1000万円で決定を書いた裁判官は1年目の裁判官であり、「教科書にはこう書いてある」としきりに言っていた。

 何事も経験であるし、一つの問題を調べる時でも、多角的な調査が必要だということが分かるであろう。

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