ひな形に頼りすぎると

中隆志

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訴状のひな形などが書かれた書式集がある。交通事故の訴状のモデルなども掲載されている。
しかし、あくまでモデルであり、書くときはどの法律に基づいて請求を立てているのかきちんと押さえておかないと恥をかくことになる。

 自動車損害賠償保障法という法律があり、その三条で、「自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によって他人の身体又は生命を害したときは」被害者に対して原則的に損害賠償責任を負うとされている。いわゆる運行供用者責任といわれるもので、会社名義の自動車で従業員が事故を起こした場合は原則としてこれにあたることになる。業務中でなく、帰宅するのに会社の自動車の利用を認めていた場合には、帰宅中の従業員の事故にも責任を負わなければならない。この場合、被害者は従業員とその会社に対して賠償請求が出来る訳である。

 しかし、この自賠責法三条でカバーされているのはあくまで人身事故であり、たとえばいわゆる物損事故に対しての責任は書かれていない。物損については、運行供用者というような規定はないので、前述の例で会社に対して請求を立てようとすると、訴状には、会社の「使用者」が事業の執行につき起こした事故であるということも書かないといけなくなるのであるが、たまにひな形を利用しているせいか、こうした法的整理がされていない訴状をみかけることもある。

 その請求がどういう根拠で出てくるのかを考えるのが弁護士の仕事であり、それには法律から説き起こす必要があるのであるが、マニュアルに頼りすぎていると、自分で考える力が劣ってくる。調べ物をするのは重要であるが、調べた結果を自分のものにしなければ意味がないのである。

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