一つの嘘から・・・

中隆志

中隆志


依頼事件について、遅々として進まない時がある。難しい事件だったり、資料の収集に時間が必要であったり理由はいろいろである。もちろん弁護士自身がずぼらな時もある。依頼事件についてその処理を遅延していて、度合いが過ぎれば懲戒事由ともなる。
 

 私は時々依頼事件を整理して、事件ごとにするべきことを書き出すようにしている。人間であるから忘れることもあるからである。時間がかかっている事件は、依頼者に今こういう状態で時間がかかっていると説明文書を送るようにしている。依頼者はみな情報に飢えていると思うからである。誰だって自分の事件は早くして欲しい。

 ところが、事件が遅々として進まない弁護士の中には、つい嘘をついてしまう場合があるようで、依頼者からの問い合わせに、「もう裁判を出しました」とか言ってしまうのである。自分でも遅れていることは認識しているが故の嘘である。そして、この嘘をカバーするために、頑張って訴状を書き上げたらよいのであるが、こうした弁護士は訴状を書き上げることなく時間を費やすのである。話をしてみると、事件数は私の半分以下であったりするのだが、なぜかそうなるのである。

 そして、次に出してもいない事件について依頼者から問い合わせがあったりすると、「もうすぐ判決です」とか嘘を前提の回答をしなければならないはめになる。こうならないためには、出していない場合にはとにかく謝ることであろう。ただ、特段の理由なく中々裁判を出してくれなかったりする弁護士に依頼を続けてくれるかどうかも問題があるが、とにかく謝罪して、仕事の優先順位を決めてなによりも遅延している事件をやりあげてしまうことであろう。

 依頼者の方からしたら、裁判を出しているなら当然訴状の写しがあるであろうから、それを送ってくれと言えば出したかどうかはすぐ分かる。私は基本的にこちらが出したものはよほど膨大な記録でない限り控えを送るようにしている。

 ただし、人間である以上ミスは起こるものであるから時々事件について記録を検討してやらなければならないことが漏れていないかチェックすることは必要であろう。

 なお、時々、相手に財産がない限り判決を取っただけではどうにもならないと契約書にまで記載して説明し、判決が出た後にも「相手に財産がない限り強制的に回収は出来ない。こちらで調査した範囲では財産はないので、もし回収すべき財産があれば連絡下さい」とまで連絡していたにもかかわらず、判決が出てしばらくしてから、「先生、回収そろそろ全部出来ましたか。遅いのと違いますか。回収できひんのやったら、先生頼んだ意味がないし、先生を訴えますよ。」などと言ってくる人もいて、こちらは全ての義務を果たして仕事をしているのに、あたかも弁護士の責任のように言ってくる人には驚かされる。

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