「塾ジイの日記」32 ―諦めという名の鎖を身をよじってほどいてゆく―
挑戦へのプラットホーム
こんにちは。出口利光(でぐち りこう)と申します。40年間進学塾で教鞭をとり、5年ほど前に定年退職しました。最近行きつけの飲み屋さん【きさらぎ】の定休日に店を間借りして、ちょっとだけバーテンダーをしています。私の前職を誰から伝え聞いてか、仕事帰りのお客さんからお子さんの学習相談を受けることが増えました。今回も前回に引き続き【きさらぎ】の常連、某証券会社の部長である仲嶋さんの長女、美由紀さん(中学3年)の話題です。
「この瑞泉という焼酎(沖縄県産)は美味いな。マスターにもっと仕入れるよう頼んでおこう」
「そんなことより、三者懇談に向けての塾へ何を相談すれば良いの?」
「さっき(前回コラム)言ったように、三者懇談時の“想定問答”のアドバイスを請うんじゃ」
「というと?」
「株主総会の想定問答を準備するうえで一番意識することは何じゃ?」
「まあ、専門的には“事前のリスク評価および備えの十分性”ってとこかな」
「まさにそれじゃ」
「塾に事実をしっかり整理してもらい、何を備えるかを聞き出せと…」
「そうじゃ。まずはこの夏休み、そして9月以降の見通し(マイルストーン)を塾の先生から聞き出すんじゃ。要するに月ごとの施策予定と到達目標じゃな。そして秋以降ほぼ毎月模擬試験が実施されるので、その成績(偏差値)で設定するのがわかりやすい。各月の目標を達成するために、夏休み以降子どもにどんな講座が用意され、何がインプットされるのかを確認するんじゃ」
「なるほど…。なんか、会社の経営会議の準備みたいだな…」
「まったくその通りじゃ。『とにかく頑張らせる!』では話にならん。そもそも、志望校合格への施策を検討するのに子どものヤル気を前提にするのは愚の骨頂じゃ」
「でもヤル気は必要じゃないのかな…」
「不要だとは言っとらん。ただ『ヤル気を前提にするべきではない』ということじゃ。【目標=ヤル気になって勉強すること】のような捉え方は色々な意味で危険なんじゃ」
「危険……」
「例えば、経営会議で部下の課長が『来月のノルマ達成に向けて、課員を死にもの狂いで頑張らせます!』って発表したらどうする?」
「『アホか!』って言っちゃうかな…、あ、うそ、またパワハラって言われる…、えーっと、『君の気概は素晴らしいけど、もっと具体的な予定を立てた方が目標達成する可能性が更に高まるよ』みたいなコメントになるかな…」
「そうじゃろう。“頑張らせる”というフレーズは全く解決策として機能しない」
「なるほど…。部下にプレッシャーを与えているだけだと…」
「そうじゃ。現状を整理し、志望校のレベル差を分析し、その差をどう埋めるのかを塾の先生から聞き出すんじゃ」
「そうか!そうやって塾から聞いたマイルストーンを学校の三者懇談で伝えれば良いんだな?」
「いや、違う。ここから先が重要じゃ」
「ここからが…」
「その前にちょっと…」
「もぉ~ わかったよ!俺のおごりで何杯でもいいから飲んで!!」
「いや、トイレへ行こうしただけなんじゃが…それならお言葉に甘えて…この“泡盛珈琲(これも沖縄県産)”を頂こうかな(やった!)」
「(しまった!やられた…)まあ、良いよ。で、このあとの流れは?」
「塾の先生から一通りの話を聞いたら、次の質問をするんじゃ。『予定通りに成績が上がらなかったらどうなりますか?』」
「最悪のシナリオを想定しろと…」
「そうじゃ。ここが極めて重要じゃ。ポイントは、【予定通りにいかなかった場合の施策】と【第二志望校の選択肢】の確認じゃ」
「なるほど…。いきなりそんなこと聞いて塾の先生困らないかな?」
「即答してもらう必要はない。事前に伝えておくか事後に伝えてもらうので良いじゃろう」
「それをそのまま学校の先生に伝えれば良いんだな…」
「いや違う」
「え~ まだ確認することがあるの?仕事より大変だな…」
「塾の先生に確認することはここまでじゃ」
「じゃあ、あとは何をすれば…?」
「塾からの情報を学校の三者懇談の席上で先生にどう伝えるかが最大のポイントじゃ」
「どうって…そのまま言えば良いんじゃないの?」
「学校の先生に塾のことを詳しく言うのは、無意味ではないが効果的ではない。むしろ反感を買うこともあるじゃろう」
「じゃあ、何をすれば」
「学校の先生から今の成績では志望校合格が厳しいと言われたら『先生のお言葉を踏まえて、とりあえず塾で頑張らせてみます』と言うんじゃ」
「え!?それだけ?あれだけ色々なことを塾の先生から聞き出しておいて?」
「そうじゃ。あと『○○高校も第二志望として視野に入れています』のひとことも添えるんじゃ」
「ダメ押しか…」
「このやり取りで
① 学校の先生の見解(第一志望校合格の可能性は低い)の尊重
② ①を踏まえての親としての(塾の情報を踏まえた)対応
③ (塾の情報を踏まえた)保険=第二志望校
を共有できる。こうなると学校の先生は「頑張ってください」としか言いようがないじゃろう」
「なるほど…学校の先生の面子と子どもが挑戦する機会を同時に担保するということか」
「そうじゃ。そのためにはさっき(前回コラム)言ったように、懇談の席上で美由紀ちゃん本人の口から志望校を言わせ、そのサポーターとして家族が先生と向き合い、チームとしてより良い方向性を見出すことが三者懇談の真の目的じゃ」
「なるほど!早速、明日美由紀と話をしてみるよ」
「それが良かろう。美由紀ちゃんが話しているときは遮らず、否定せず、傾聴し、最後は笑顔で『ファイト!』って言ってあげるのが良かろう」
「塾ジイ急に清純派になったな」
「なんじゃと?」
「いや、なんでもない。“笑顔でファイト”か…肝に銘じるよ」
「肝といえば、お主の肝は大丈夫か?もう5杯目だけど…」
「やばっ!これ以上飲むと聞いた話を明日全部忘れてそうだから今日は帰るよ」
「明日わしは客としてきてここに居るから、また話してやっても良いぞ。珈琲泡盛美味しかったし」
「えっ?どれだけ飲んだら気が済むの?」
「わしは肝が丈夫じゃからどれだけ飲んでも気は済まない」
「……」
前回のコラムでお話ししたように、三者懇談は【株主総会:企業にとって一大イベント】=【三者懇談:家族にとって一大イベント】のイメージで周到に準備をして臨むことが重要です。そういう意味で塾の先生は“コンサル”として大いに頼りになる存在です。ポイントは
1)現状分析 2)今後の予定(施策) 3)第二志望校の想定です。これらをしっかり塾の先生と共有したうえで学校の先生とコンセンサスを取れれば、お子様の夢実現チーム(本人+家庭+学校+塾)が結成されます。とかく学校と塾は敵対しているイメージがありますが、うまく調和させれば最強チームを作り上げることができます。受験は団体競技です。【納得できる最悪のシナリオ】を起点とし、お子様が全力で夢実現に挑む環境・時間を確保できれば、理想的なスタートラインに立てたと言えるでしょう。
この記事はフィクションです。人物名等はすべて架空のものです
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