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熊本にゆかりのある作品の魅力や価値を伝え、郷土愛を育み、誇りに思う地域づくりへ

熊本ゆかりの掛け軸と弓具の魅力を伝えるプロ

菊田幸志

菊田幸志 きくたこうじ
菊田幸志 きくたこうじ

#chapter1

掛け軸・絵画・古書・古文書などを専門に扱い、日本の伝統美術や歴史を継承

 「掛け軸は、書や絵を布や紙で表装し、壁に掛けて鑑賞する日本の伝統美術で、春夏秋冬で掛け替え、季節の風情を感じられるのが魅力です。江戸後期に活躍した肥後土佐派の祖・福田太華が描いた水墨画や、作家の夏目漱石が熊本滞在中に短冊にしたためた俳句など、著名人の直筆には心を打つ趣があります」

 そう話すのは、熊本市東区で「ギャラリー渡鹿庵」を営む菊田幸志さん。熊本に縁のある作品を中心に、掛け軸・絵画・古書・古文書などを買い取り・販売しています。

 「九州は湿気が多く、水害の影響もあって良い状態を保つのが難しいんです。書画などを飾る床の間をしつらえた家屋も減少し、熊本では掛け軸専門店は希少だと同業者さんも言ってくださいます」

 ギャラリーには、骨董品の愛好家はもとより、歴史的資料を収集している研究者、故郷を愛する有志、故人の作品を探している遺族なども来訪。会社に飾れば郷土愛を表現でき、旅館からは「夏目漱石に思いをはせる客室にしたい」、ハウスメーカーからは「掛け軸を主役にした部屋をつくりたい」と相談されたこともあります。

 「昨今はネットが普及し、海外からもニーズがありますが、熊本ゆかりの品は熊本に残したいと考えています。作者や作品にまつわる時代的背景や精神文化、美意識に理解を深め、適切に価値を見極めることで、貴重な財産を後世へ継承できればと願っています」

 来店した顧客からは「かすれやにじみのような繊細な筆づかいや、濃淡の色合いがよく分かる」といった声も。現物を見て、当初の目当てとは違う作品に心を奪われて購入するケースもあるそうです。

#chapter2

中学から弓道を始め、御弓師のもとで弓づくりを学んだ後、骨董品の世界へ転身

 大阪で生まれ育った菊田さん。祖父から「武道の中でも競技人口が少ない弓道なら日本一を目指せる」と背中を押され、中学で弓道部に入部。弓を引き続け、大学では、遠的競技の全国大会で優秀な成績を収め、近的競技でも実績を重ねました。

 「大学在学中は、京都で約500年にわたり京弓を製造する御弓師・21代目柴田勘十郎氏の工房を訪れる機会も得ました。職人を研究するゼミの友人に同行したのですが、縄を巻いたり、くさびを打ったりする『弓口』の作業姿がかっこ良くて、自分も弓をつくりたいと思いました」

 以来、週末や夏季休暇を利用して約2年半、柴田氏のもとで修行に励みます。何度も寝食を共にし、菊田さんにとって第二の親のような存在になったとか。

 2012年、師匠のすすめで熊本の弓道具店へ就職。矢の制作・検品に携わりますが、師事していた職人が亡くなり、今後を思案していた折、知人の骨董業者から「熊本には掛け軸の専門店がほとんどないので、開業してみないか」と提案されました。

 「祖父が古美術を好み、四季折々で掛け軸を替える環境で育ちました。柴田氏に習っていた学生時分、家電や日用品を主に扱うリサイクルショップで働いた経験もあったので、職人の道から骨董品の世界へ進むことを決意しました」

 販売にはインターネットの知識が欠かせないと考え、2年と期限を決め、デジタルマーケティングで企業の情報発信をサポートする会社に転職。IT技術を学び、2017年に独立して「ギャラリー渡鹿庵」を開業しました。

菊田幸志 きくたこうじ

#chapter3

弓道の裾野を広げるため、弓具の買い取り・販売、オンラインスクールも展開

 菊田さんはギャラリーと並行して「古弓具渡鹿庵」も展開。弓や矢の買い取り・販売・修理にも力を入れています。

 「弓具は中古市場の規模が小さく、進学や就職などで使わなくなると後輩らに譲るか捨てるかで、あまり流通しません。興味があっても新品は値段が高く、始めるのをためらったり、諦めたりする人もいるでしょう」

 初心者は低価格で入手できるうえ、使い込まれているので弓のしなり具合が落ち着き、稽古ですぐに使えるのが利点です。上級者にとっても、有名な職人が手掛けた名品と出合える可能性があり、買い取りではプレミアが付いて高値となる場合もあると言います。

 「必要とする人のもとへ大切に橋渡しすることで、弓道の裾野を広げたいと考えています。また、学校や経験が少ない指導者さんに向けたオンラインスクールも開設しています。練習の動画を送ってもらい、文章で改善点などをアドバイスし、生徒さんへのフィードバックに役立ててもらえます」

 古物商として身につけた知見も発揮。地域の小中学校から講演に招かれた際は、書画などを見せながら、熊本にゆかりがある画家や歴史について語っています。

 「作家の出身地などの学校に作品を寄付し、生徒さんが本物を身近に感じられる環境を整えることも夢です。豊かな風土から創造された芸術に関心を持ち、わが町を誇りに思い、自尊心を育む一助になれば幸いです。美術部の学生さんの進学を後押ししたり、個展の場を提供したり、若い才能も応援したいですね」

(取材年月:2026年6月)

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菊田幸志

熊本ゆかりの掛け軸と弓具の魅力を伝えるプロ

菊田幸志プロ

掛け軸、弓具の買い取り・販売

株式会社渡鹿庵

作者や制作された時代背景を見極め、掛け軸・絵画・古書・古文書などの古美術を買い取り・販売。熊本ゆかりの作品を数多く扱うほか、中古弓具の買い取り・販売やオンラインでの指導にも取り組んでいます。

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