Vol.47 ロバート・ツルッパゲとの対話から考える。知らんけど。
(導入)ポチョムキン理解とは何か
最近、ハーバード大学などの研究チームが発表した論文で、大規模言語モデル(LLM)が示す「ポチョムキン理解(Potemkin Understanding)」という現象が注目を集めています。
論文を取り上げたニュースサイトはこちら。
AIは「賢いフリ」をしていた
そもそも「ポチョムキン村」の逸話にちなみ名付けられたというこの概念を利用した説明ですが、AIの仕組みがとても分かりやすく説明されており、また、これまで疑問に思っていたハルシネーションなどのよくわからない説明を別の観点で行っていますので、ぜひご一読なさってみてください。
この記事では、AIがテストでは概念を正確に説明できるものの、実際の応用や推論の場面では一貫して正しく使えず、しかもその矛盾を自覚できてしまう──いわば「張りぼての理解」を指摘しています。
たとえば、GPT‑4oが詩の韻律スキーム(ABAB形式)を完璧に説明しながら、実際に詩の空欄埋めの問題を提示して依頼すると別の韻律で答えてしまい、さらに、そのあとAI自身でも「韻を踏んでいない」と正しく自己評価する・・・そんな奇妙な挙動が報告されていますね。
でもそういえば、そんな挙動、私たちがよく生成AIを利用している時に目にしませんか?
やはり単なる「確率型のオウム」かもしれません。
私たちの学びの中にも起こるポチョムキン理解
実は、この現象は人間の学習においてもよく見られますし、個人的にはその点こそが、これまでの学びの在り方を根本から見直す要素だと感じています。
テストだけはできるけど、実践では間違える
例えば、数学の公式を暗記して問題集の解答欄には正解を書けるものの、実際の応用問題になると使いこなせない。
説明はしどろもどろでないが、実際にやるとおろおろする
言葉で理論をうまく解説できても、ワークショップで参加者に教えるときには手順が飛んでしまう。
AIを使っているうちに、いつの間にか自分がすごいことが出来る
よく「AIのすごさ」を伝えているようなYouTube動画やブログ記事の中、あるいは、AIを活用するのではなく、AIに答えを教えてもらうだけの形で勉強される方の中には、自分がなんでも出来るかのような気持ちになる方がいます。
もしかしたら、それこそがハルシネーション(幻覚)なのかもしれませんね。
そんなこと、ありませんか?
ただ、これらは決して「100%否定的に捉えるべき失敗」ではないと考えています。
むしろ、学びの過程においては、「誰もが経験する自然なギャップ」ではないでしょうか。
AIに同じことが起きるのは、そもそも人間の学習プロセスを模倣する過程で避けがたい側面とも言えるのでしょう。
もし否定的に捉えることがあるとすれば、それは学校や塾、先生の授業などにおいて、表面的なテストの点数ばかりを求めさせてしまう「生徒のポチョムキン化」を推し進めてしまっている場合と言えるでしょう。
ポジティブに捉えると人間らしさの証明とも言える
「見せかけの理解」に過ぎないと切り捨てるのは簡単ですが、こんな見方もできるので、新しい視点として持っておくのも良いかと思います。
人間味ある「ずれ」が見える
「完璧に知っている人」は、なんだか近寄りがたいものですが、「完璧に見えて実はどこか抜けがある人」は、それゆえに愛着が持たれやすいようです。なので、完璧人間を目指すのは精神衛生的にもコミュニケーション的にもやめといた方がいいかもしれませんね。
学びの本質を示してくれるきっかけ
実践と説明のギャップを、ちゃんと自覚することで、自分自身の理解をさらに一歩、深めていくヒントになります。メタ認知が重要なのは、昨今では当たり前のように語られていますね。
共に成長するパートナーとしてのAI
「AIは人間が成長させるもの」です。
AIは、永遠の人間の教師でもなければ、万能な支配者でもありません。むしろ、指摘して修正をおぼえてもらうなど、AIの成長をサポートしてあげることが出来れば、共に成長するよい機会となります。
こうした視点で捉え直すと、「ポチョムキン理解」を、短絡的にAIの欠点として考える必要はなく、むしろ「人間らしさ」を映し出している鏡とも言えるかもしれません。
(自己点検)私は「ポチョムキン理解」に陥っていないだろうか?
最後に、みなさん自身の学びの状況を振り返ってみましょう。
以下の点をチェックしてみてください。
- テストや模擬演習でだけ正解になっていないか
- 説明はできても、実際にやるとできない場面がないか
- ミスを認める前に「ちゃんと自分はできているはず」と感じていないか
ここで私たちの障害となるのが「確証バイアス」です。
私たちは自分の理解を信じたいがゆえに、失敗や矛盾を見逃しがちです。
意識的に「本当に使えているか」「本当に理解しているか」を問い続けることで、学びをさらに確かなものにしていきましょう。
いかがでしたか?(*^^*)
「ポチョムキン理解」は、AIだけでなくて、私たち自身の成長プロセスにも深く関わるテーマと言えますよね。
AIや自分自身の学びのギャップを認めて、さらに高め合う視点で、より豊かな学びを目指していきましょう。




