父、そして私と三日月の夜
「パリの調香師 しあわせの香りを探して」
(監督・脚本:グレゴリーマーニュ)
というフランス映画を観ました。
嗅覚を失った
天才的でわがままで人嫌いな女性調香師が
嗅覚を失ったことで第一線の華やかな
フランスの香水業界から見放されていく中で
うだつのあがらない運転手と
少しずつ心を通わせていき
再起をかけるロードムービーです。
香りをどう映像で見せるのか?
それは結局言葉による表現になります。
主人公の調香師が洞窟の壁を触って匂いを嗅ぐとき
「アヤメの根っこ、オーク、苔の混ざった匂い」と言います。
また調香師が新しく調合した香水を運転手に嗅がせ
意見を求めるシーンでは、
彼は「蝋で磨かれた古い家具、教会のような匂い」と答え
それは蜂蜜をベースにしたものだったので
的を得た感想だったことがわかります。
昔ワインのテイスティングの体験学習をした時に、
講師の方が
「どんな味がしたか、なるべく多く書き出してみてください」
と言われたことがあります。
ただ「甘い」とか「軽い」とかではなく
例えば「初夏の少し湿った土のような香り」とか
様々な言葉を用いてワインの味を定義していく。
結局、言葉が味を形作っていき
今度は自分のメモを見返すと
その味がよみがえってくる。
表現が豊かであればあるほど
その味が生き生きとよみがえることになります。
料理を作ってもらったり
どこかで食事をするときも、
ただ「美味しい」だけではなく
どんなふうに美味しいのか、
いろいろな表現を使ってみると
より豊かな経験値として
脳に刻まれていくのではないでしょうか。
またコミュニケーションの幅も広がるに違いありません。
またこの映画では、この女性に嗅覚の専門医が
あきらめかけていた治療をしていく決心を
促す言葉が印象的でした。
「対処を誤ると嗅覚障害は再発する」
「鼻と脳が協力するのをやめてしまうんだ」
「治療法の1つは仲違いの原因を見つけ関係修復を図ること」
「原因不明なら思い出させる」
「協力すれば可能性が広がることを」
それは、
「私とあなたも同じだ」
「協力しよう」
この専門医とその女性の関係は
ある意味、精神科やカウンセラーと
クライアントの関係にも似ているような気がしました。
専門家がクライアントを治すのではなく
あくまでも「協力すれば可能性は広がることを」ということ。
この映画は私に重大なことを
改めて教えてくれました。
そして、心と脳が協力することをやめてしまう
様々な精神の病気は
心と脳の仲違いの原因を見つけて関係修復を図ること…
それは、専門家と治療者との関係でも同じであるということ…
映画の中のセリフは
時に大きな人生のアドバイスにもなるのだと
感じた日でもありました。