人の器
その日、はじめて
父(88才)はひ孫と対面しました。
父は長い間その子をじっと静かに見つめ
抱き続けていました。
遠い遠い昔
それは私が5才の頃
生れて退院間際の私の弟が
医療ミスであっという間に亡くなりました。
5才の私が祖父母に連れられて
病院を訪れた時には
小さな小さな弟は
小さなお棺の中に白いお花や
オモチャの車などと一緒に眠っていました。
あの時の父と母の姿と弟の姿は
私の記憶の中では
ぼんやりとしたベールに包まれながらも
決して忘れられない
悲しすぎる残酷な空間でした。
あれから何十年もの時が過ぎ
父はやっとやっと
生まれ変わりのような新しい男の子の尊い命と
出会えたのでした。
父は、自分の我が子を見るように
そして我が子が二世代の時を超えて
生れ変わって訪れてきたように
ひ孫を大切に大切に
抱き続けて見つめ続けていました。
父の静かな穏やかな表情は
泣いているようでも
笑みを浮かべているようでもありました。
そして父はやっと一言、母に向かって言いました。
「ママ、これからだよ…。」
その日、私はたくさんの涙で
清められました。