事業譲渡型M&Aで「必ず決めなければならない」7つの重要ポイント

齊藤肇

齊藤肇

テーマ:事業承継


M&Aのご相談を受けていると、
「譲渡先はすでに決まっています」「金額についても合意しています」
という段階で、「あとは契約書を作るだけですよね?」と聞かれることがあります。

しかし実務上は、譲渡先と譲渡金額が決まった後にも、決めなければいけないことが多くあります。
特に事業譲渡の場合、会社全体を引き継ぐ株式譲渡とは異なり、 「何を・いつ・どの条件で引き渡すのか」を一つ一つ決める必要があります

ここを曖昧にしたまま進めると、
譲渡後に「そんな話は聞いていない」「想定外の責任を負わされた」
といったトラブルに発展しかねません。

本コラムでは、譲渡先・譲渡金額が決まった後に必ず決めておくべき7つのポイントを事業譲渡を例に解説します。

① 何を譲渡し、何を譲渡しないのか(承継対象の特定)

事業譲渡では、事業に関わるすべてが自動的に移るわけではありません。
契約書では、「承継対象資産」「承継対象契約」「承継対象債務」を別紙で具体的に列挙するのが一般的です。
設備・機械・在庫・ソフトウェア・取引契約などについて、
「当然含まれると思っていたものが、実は対象外だった」というケースは少なくありません。 譲渡の範囲を明確にすることが、トラブル防止の第一歩です。

② 債務・リスクをどこまで引き継ぐのか

事業譲渡では、借入金や未払金などの債務は原則として譲渡されません
ただし、保証金返還債務や契約に付随する債務など、事業と一体となって動く負債については整理が必要です。
また、債務を引き継ぐ場合には、 「金融機関や取引先の承諾が必要(免責的債務引受)」となる点も重要です。
この点を軽視すると、譲渡後も譲渡側に責任が残る可能性があります。

③ 従業員をどう扱うのか(転籍の整理)

事業譲渡では、従業員は自動的に移りません。
一人ひとりの同意を得たうえで「転籍」させる必要があります。
誰を引き継ぐのか
・雇用条件は維持されるのか
・未払賃金や退職金はどちらが負担するのか
これらを契約書上でも明確にしておかなければ、 労務トラブルや従業員の不信感につながります

④ 表明保証と補償範囲をどう設定するか

事業譲渡契約では、譲渡側・譲受側双方が 「現時点で問題がないこと」を表明保証します
例えば、
・隠れた債務が存在しない
・法令違反や訴訟がない
・税務上の問題が顕在化していない
などです。
万一、後から事実と異なることが判明した場合、 損害賠償や補償請求の対象となります
保証期間・補償額の上限をどうするかは、
譲渡後のリスクを左右する極めて重要なポイントです。

⑤ クロージング条件を設定する必要があるか

事業譲渡では「クロージングの前提条件」を検討し明確にします。
例えば、
・株主総会決議の取得
・表明保証が真実であること
・譲渡代金の支払準備が整っていること
などです。
条件を設定しておくことで、想定外の事態が起きた場合の安全弁になります
条件を設けるかどうか、設けるならどこまで厳格にするかは慎重な検討が必要です。

⑥ 資金・資産・負債の移動スケジュールをどう組むか

実務で非常に重要なのが、スケジュール管理です。
・いつ譲渡代金を支払うのか
・いつ資産を引き渡すのか
・いつ契約や許認可を移すのか
これらをクロージング日を基準に整理します。
特に、登記や名義変更、契約承継にはクロージング後に一定期間を要するものもあります。
スケジュールを曖昧にすると、 「代金は払ったが引き渡しが終わらない」といった混乱を招きます

⑦ 譲渡後の関与や競業避止をどう設計するか

最後に重要なのが、譲渡後の関係性です。
多くの案件では、譲渡後もしばらくの間、
元オーナーが引継ぎや顧客対応に関与します。
・どこまで関与するのか
・期間はどれくらいか
・同業を行わない義務(競業避止)をどう設定するか
これらを決めておかないと、 譲渡後に「まだやってくれると思っていた」「もう関与しないと思っていた」 という認識のズレが生じます

おわりに

M&Aでは、譲渡先や譲渡金額が決まると安心してしまいがちです。
しかし実際には、その後の条件整理こそが、成功の成否を分けます。

事業譲渡は「契約書を作れば終わり」ではなく、 経営者の責任と人生を守るための重要なプロセスです。 譲渡先が決まっている今だからこそ、 一つ一つの条件を丁寧に詰めていくことが求められます。

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齊藤肇
専門家

齊藤肇(中小企業診断士、行政書士)

合同会社メイクイットワーク

「よいカタチで会社を譲りたい」との経営者の思いをかなえる事業承継を支援。経営を見える化し、適した手段と無理のない事業承継計画を策定。着手金無し完全成功報酬の補助金申請支援等を行っています。

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